いつもとは違う視点から見た人間の動作を犬は真似できるか?
犬のトレーニングの方法で、Do As I Do(真似してみて)という方法があります。その名の通り、人間が犬の目の前で何らかの動作を行なって犬がそれを真似するように導くというものです。ミラー・メソッドという名前でも呼ばれています。
この方法は他者の行動を真似して学ぶという、犬の自然な社会的学習能力を利用したもので、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の動物行動学者によって開発されました。
このたび同大学の比較行動学の研究チームによって、犬が通常とは違う視点から見た人間の動作を真似することができるか?という点についての研究結果が発表されました。
正面、サイド、上方からのアングルで見た動作で実験
この研究のための実験にはゴールデンレトリーバー(2歳オス)とラブラドールレトリーバー(6歳メス)の2頭が参加しました。2頭はどちらもDo As I Doの方法を使って人間の行動を真似するように、飼い主によってトレーニングされています。
まず最初に、飼い主が犬の目の前で動作を示して、犬がそれを模倣する能力がベースラインとして確認されました。
実験は犬と飼い主が同じ建物内の別の部屋に配置され、オンライン会議ソフトを通じてお互いの映像を見ながら、飼い主が犬に指示を出すという形で行われました。
飼い主がカメラの前で何らかの動作をやってみて「真似して」という言葉で犬に合図を送り、画面上でこれを見た犬がそれを再現するというものです。
実験では、正面、サイド、上方という3つのカメラアングルから映された行動を、犬がどの程度模倣できるのかがテストされました。
テストされた行動は、後ろ向きに歩く、水平に回転する、ブザーのボタンを押す、横になる、などです。また、物を拾う、鼻で棒にタッチする、水筒を倒すなど、過去に訓練されていない新しい行動を模倣する能力もテストされました。
犬は2次元の視覚刺激で行動の模倣ができる
実験の結果、通常のトレーニングで行われている、後ろ向き歩き、水平に回転、ブザーのボタン押し、横になる、さらに訓練に含まれない行動についても正面や横から撮影した映像では、犬たちは模倣することができました。
しかし、目の前で実演した時と比較して成績は有意に低下していました。
また、日常生活では目にすることがほとんどない上方からのカメラアングルの映像では、犬が人間の行動を模倣することは困難であることがわかりました。
これは犬が今までビデオ映像の模倣よりも、目の前で実演の模倣をより多く経験しているからで、今後のトレーニングでビデオ映像でのパフォーマンスが向上する可能性があります。少なくとも犬は2次元視覚刺激に基づいて、人間の行動を模倣する認知能力をある程度持っていることを示す結果となりました。
この実験で重要なことは、異なる視点から見た映像を犬に使用する可能性を示したことです。この実験で得られた知見は、犬の模倣能力、犬の視点、遠近感を把握する能力をさらに調査する方法の基礎となると考えられます。
まとめ
Do As I Do(真似してみて)の方法で、訓練された犬に2次元のビデオ映像を見せて真似するよう指示したところ、普段と同じ視点からでは成功するものの、上方からという普段と全く違う視点からは、模倣が難しかったという実験の結果をご紹介しました。
この結果は犬の模倣能力を調査する際の、視点操作の重要性を示すこととなりました。また同時に、犬の模倣について調査するために2Dビデオを使用することが可能であることを示しており、今後犬の認知能力を研究するための方法の可能性が広がると考えられます。
《参考URL》
https://link.springer.com/article/10.1007/s42977-024-00222-6