犬の盗難被害に遭った人の感情や悲しみを検証するための調査
大切な愛犬との別れはどのような形であれ悲しいものですが、愛犬がある日突然盗まれてしまうという理不尽な経験がもたらす感情的な混乱は、死別などとは大きく異なります。
この度、イギリスのバークシャー・ヘルスケアNHS基金(メンタルヘルスを中心とした医療基金)と西イングランド大学ブリストル校の研究者によって、犬の盗難の被害者の感情や悲嘆を検証するための調査が行われ、その結果が発表されました。
この研究は、曖昧な喪失に苦しむ飼い主のニーズ、それに対処する方法、このプロセスにおけるソーシャルメディアの役割などを探り、被害者への心理的支援を導くことを目的としているそうです。
研究者の一人は友人の愛犬が盗難されてしまい、彼女の悲嘆と苦悩を目にして被害者の支援をするために何かをしなくてはと、この研究に着手したといいます。
パンデミックを機に犬を飼いたいと考える人が増え、世界各地でペットブームが起こりました。イギリスも例外ではなく、さらに悪いことに犬の盗難被害の件数も増加するという事態となりました。
愛犬を失う悲しみは、自分の子どもを失う悲しみに近い
愛犬を盗難されるという感情的に繊細な体験を探求するという研究の性格から、参加希望者への説明は詳細に行われました。
最終的には参加基準に合致する4名の参加者にインタビューを行ない、それぞれのソーシャルメディアへの投稿も二次データとして使用されたといいます。
インタビューの内容からは、悲しみ、絶望感、感情的な苦痛、無感覚、不安などが一貫して報告され、人間の愛する人の死と同じような感情的反応が見られました。
しかし社会が人間との死別と、コンパニオンアニマルとの死別をどのように見ているかの違いによって、人間との死別とは違う感情もあったといいます。
また死別とは違って、犬が盗まれた方法が強盗など強制的な力によるものだったり、自分の家や自動車などに他人が侵入したものであったりすることによって、絶望や苦痛などの感情はさらに悪化する傾向が見られました。
愛犬を盗まれた被害者の悲しみは、自分の子どもを失った人の悲しみと似ていることを研究者は指摘しています。
しかし犬の生死がわからないまま戻ってこなかったり、亡くなっているのが発見されたりした場合、その出来事から解放されないというリスクがあり、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症したり感情の処理に困難を生じやすいという問題もあります。
調査結果は動物の盗難厳罰化への証拠となる可能性も
愛犬が盗難されるという経験は想像しただけでも胸がつぶれそうになるものですが、法律上は犬の盗難は自転車などの物品を盗まれるのと同程度の扱いになることが多く、そのため警察からの支援にも限界があります。
研究者は今回の調査によって、犬と飼い主の強い愛情と関係、そしてそれらが失われた時の精神的苦痛が明らかになったと述べています。
調査によって得られた実証的証拠は、ペットの盗難被害者の悲嘆に対する心理的および法的支援を定式化するために役立つと考えられます。例えば、ペットの盗難に対する厳罰化の法改正の根拠のひとつとなるということです。
研究者はすでに次の研究にも着手しているそうです。「愛犬盗難の影響を知るための質問票」を設計し、盗難の影響を受けた人のサポートツールとしてのアンケートとして使用することを考えているといいます。
動物は物品ではないという考えのもと、ペット盗難への対処の改革を提唱している他の研究者との協力関係も始まっているとのことでした。
まとめ
愛犬を盗まれた経験のある人へのインタビューから、被害者の精神的苦痛を実証的証拠として示されたという研究結果をご紹介しました。
犬であれ猫であれ、コンパニオンアニマルと暮らす人にとって彼らは大切な家族です。家族が誘拐された苦悩や悲しみ、さらにそれが自転車泥棒と同じ扱いにしかならないと考えると、言葉に言い尽くし難い腹立たしさを感じます。
このような研究によって動物の盗難の厳罰化が進み、イギリス以外の国にもその動きが広がっていってほしいものだと心から感じます。
《参考URL》
https://doi.org/10.1079/hai.2024.0004