犬との散歩中、飼い主の怪我のリスクとは何かを検証
犬を飼うこと、とりわけ犬との散歩が飼い主の健康に良い影響をもたらすことはさまざまなメディアや研究が繰り返し伝えています。
人間が単独でウォーキングをするよりも、犬との散歩の方が心と身体の両方により良いことも報告されていますが、犬との散歩は、人間だけのウォーキングでは起こらない事故や怪我が発生することも確かです。
最近の研究では、特に高齢者における犬の散歩中の怪我の発生率が注目されています。
このたびカナダのコロンビア州の動物救急センターとカルガリー大学フットヒルズ・メディカルセンターの医師が、犬の散歩中の人間の怪我に焦点を当てて過去の文献を検証し、散歩中の怪我を引き起こす因子を洗い出す調査を行ない、その結果が発表されました。
犬がリードを引っ張る行動はリスク因子
研究者は218件の論文の中から犬による咬傷を除外し、骨折、転倒、犬のリード、散歩などに関連する8件の文献を検証しました。8件の文献のうち6件がNational Electronic Injury Surveillance System(全米電子傷害監視システム)のデータを用いていました。
検証の結果、犬の散歩に関連する年間の傷害件数は、2001年から2020年にかけて全年齢で4倍以上に増加していました。特に65歳以上では、2004年から2017年の間に約2.5倍に増加していたとのことです。
ただし、救急外来の症例全体を通して散歩による怪我の割合は非常に低く、犬の飼い主の間でも比較的低いこともわかりました。さらに救急外来に搬送された犬の散歩に関連した症例のうち、入院が必要な重篤な症例は10%未満だったそうです。
検証した文献のうちの2つの研究によると、散歩中の怪我は通常、犬がリードを引っ張ることによって起こり、50%以上の症例で転倒に至っていました。
他の2つの研究(これらは特に下肢の怪我を評価したもの)では、事故の63.3%がつまずきや足のもつれによるもので、リードが引っ張られたケースは29.2%だったと報告されています。
入院が必要だった症例(全体の7.2%)では骨折が最も多く、ある研究では外傷性脳損傷が二番目に多いと報告されていました。
65歳以上の女性は犬の散歩中の怪我のリスクが高い
この調査で検証された過去の文献は人間の医療データに基づいているため、散歩中の怪我に関係していた犬の種類や大きさ、使用されたリードの種類、その他事故を取り巻く状況についての情報は不足しています。
飼い主側の因子で言えば65歳以上の女性において、犬の散歩に関連した怪我が増加していました。犬側の因子では、前述のように引っ張り行動が怪我の一般的な原因につながります。
研究者は、犬の散歩中の怪我を防ぐために犬がリードを引っ張らないよう専門家による適切なトレーニングを行なうのであれば、自分の体格や力に見合った犬種やサイズの犬を選ぶなどの対策を提案しています。
伸縮可能なリードは飼い主(特に高齢の人)が怪我をする可能性を高めるかもしれないと言及していますが、この点については今後さらに研究することが必要だとしています。
リードの他に犬の首輪またはハーネスによる違いも、今後の研究課題として挙げられています。しかし引っ張り防止のためにチョークカラーやプロングカラー(爪付きカラー)を使うことは、犬の神経や皮膚を損傷するリスクがあるため使用しないよう呼びかけています。
また過去の研究では、犬の背中で留めるタイプのハーネスは引っ張りがより強くなることがわかっているため、犬の行動や飼い主のスキルに合わせて適切なハーネスを選ぶことの重要性にも触れています。
まとめ
カナダの獣医師と医師が犬の散歩による負傷が増加していることを過去20年の文献から検証し、65歳以上の女性のリスクの高さを指摘したという結果をご紹介しました。
この検証自体は、今後さらに研究を進めるための課題を挙げていくために役だったと思われます。
散歩中の怪我につながりやすいリードや首輪などの情報が明らかになるとありがたいですね。また飼い主の体力や体格、スキルに見合った犬を選ぶことの大切さも改めて知らせる検証結果だったと言えそうです。
《参考URL》
https://doi.org/10.2460/javma.23.11.0608