犬にも「不注意性盲目」が起こるのだろうか?
何かに集中している時などに、視界に入っているはずのものが見えなかったり、物音や人の声が耳に入らなかったりするという経験は多くの人が持っています。人間は無意識に情報の取捨選択を行なって、適切だと判断した方向に注意を向けるからです。
注意を向けられていないために物事を見落としてしまう現象を、心理学では「非注意性盲目」という名で呼ばれています。ところで、このような現象は犬にも起こるのでしょうか?
この点について、アメリカのオーバーン大学の心理科学の研究チームが犬の非注意性盲目を検証するための実験を行ない、その結果が発表されました。
廊下を走る実験で、犬の不注意性盲目を検証
実験には24頭の犬が参加し、性別と気質でバランスが取れた2つのグループに分けられました。犬の気質は実験の結果に影響を与える可能性があるからです。
犬たちはまず、障害物のない廊下を5回連続して走るようトレーニングされました。次に、1つのグループには、6回目〜10回目の走行の際に廊下の終点でトリーツを与え、ここまで走るとトリーツがもらえるという期待を条件づけました。
もう1つのグループに対しては、トリーツを与えずに6回目〜10回目の走行を行ないました。次に11回目と12回目の走行が行われたのですが、その際にどちらのグループも、廊下の途中に犬が見たことのない物体を置きました。
この物体に対しての、2つのグループの犬たちの反応が観察され、スコア化して記録されたそうです。
犬も集中している時には周囲への反応が薄くなる!
犬たちの反応を分析した結果、廊下の終点でトリーツをもらったグループの犬たちは、途中に置かれた物体への反応が有意に少なかったことがわかりました。
このことは、犬が報酬(トリーツ)を期待している時には走るという課題に集中していて、周囲の目新しい刺激に注意を向けなくなることを示唆しています。
このことから、犬も人間と同じような不注意性盲目を経験するのだ、と研究者は結論づけています。この実験で得られた知見は、犬における不注意性盲目についての初めての証拠となります。
人間の不注意性盲目は、情報過多による過負荷を処理するための身体の仕組みです。今回の研究結果から、犬にも同じプロセスが起こっている可能性が高いと考えられます。研究者は、さらに詳しいことを知るためには今後も研究が必要であると述べています。
まとめ
犬が報酬を期待して課題に集中している時には、環境中にある見慣れない物体に反応しないという実験から、犬にも「不注意性盲目」という現象があるという研究結果をご紹介しました。
このことは犬の行動学において重要な意味を持ち、犬のトレーニング(特に働く犬の訓練やパフォーマンス)や社会化の方法をより良くしていくためにも役立つと考えられます。
一般の飼い主さんとしても「犬も何かに集中している時は周りが見えなくなるんだな」と認識しておくと、愛犬の行動を理解するのに役立つことと思います。
《参考URL》
https://doi.org/10.1016/j.applanim.2023.106030
https://www.newsweek.com/dogs-miss-things-focused-treats-1888489