飼育放棄を予防する対策を立てるために保護団体が行なう研究
犬は世界の多くの国で最も人気のある伴侶動物ですが、その一方で飼い主が手放したために、行き場を失ってしまった犬たちもまた世界中にたくさんいます。
このような犬を新しい家庭につなげる役割を果たしているもののひとつが、動物保護団体です。イギリスやアメリカの大規模動物保護団体はレスキューや譲渡活動だけでなく、調査や研究活動も行なっています。
犬と人間の両方の行動や思考を研究することで、何が飼育放棄や動物虐待に関連するのかを知り、より効果的な対策を打ち立てるためです。
イギリス最大の犬保護団体ドッグズトラストは数多くの研究を発表している団体で、このたびは「人々は犬を迎える前にどのようにして情報を集めたり参考にしたのか」についての調査結果が報告されました。
アンケートとインタビューを使って犬についてのリサーチ経験を調査
調査方法はオンラインによるアンケート調査と、インタビューによる聞き取り調査の2種類が実施されました。
アンケート調査への参加者は、ドッグズトラストのSNSへの投稿者や、同団体のサポーターや訪問者を通じて行われましたが、回答者の層を厚くするためにドッグズトラストとは関係のない有料広告を使った募集も行われました。
アンケート調査では最終的に、現在犬を飼っている人4,382名、これから犬を飼う可能性がある人2,350名から回答を得ることができました。
アンケートの項目は犬を飼う前のリサーチ経験に焦点が当てられました。現在犬と暮らしている人には、犬を飼い始める前に求めた情報やアドバイスについて、犬を飼う可能性がある人には、既に行なったリサーチや今後のリサーチ計画についての回答が求められました。
このアンケート調査では量的なデータが収集されましたが、質的な内容をより深く理解するために、回答者の中から「現在犬を飼っている24名」と「これから犬を飼う可能性がある人8名」に対して研究者がインタビューを実施しました。
手軽なリサーチ方法が人気で、専門家への相談が少ないという問題点
アンケート調査の結果は次のようなものでした。
- ほとんどの回答者は複数の情報源を利用してリサーチを行なっていた
- 情報源として最も多かったのはウェブサイト(76.2%)
- その他の情報源は、家族や友人(69.6%)、オンラインフォーラム(51.1%)書籍(37.3%)
興味深いことに、これから犬を飼う可能性がある人のうち「まだリサーチをしていない」と答えた人は、「希望するリサーチ方法」として獣医師やドッグトレーナーなど専門家への相談を挙げた人が多かった(29.2%)そうです。
一方で、現在犬を飼っている人が挙げた情報源のうち、獣医師は13.8%、ビヘイビアリスト22%、トレーナー11.5%という低いものでした。
現在犬を飼っている人の66.1%は、リサーチを始めてから5年以内に犬を迎えていました。犬の入手先はブリーダーが48.5%、動物保護団体や公営シェルターからが37.8%と大半を占め、飼っている犬種は57.6%が純血種、23.1%が特定の2犬種のミックスでした。
インタビュー調査からは、犬に関する一般的な情報、犬種や犬のタイプに関する情報、飼い主の条件と犬の適性、犬を飼うことのいろいろな側面、犬の入手方法などに関する情報が一般的に求められていることがわかりました。
多くの人は欲しい情報は全て見つけたと回答しましたが、回答者の中には「情報源によって相反するアドバイスが書いてあった」「どの情報源を信用すれば良いのかわからなくなった」と答える人もいたといいます。
インターネットが情報源のメインを占めていることは予想した通りでしたが、その正確性や信頼性に疑問を持っている人も少なくありません。また家族や友人への相談も、そのアドバイスの質にはばらつきがあることが容易に想像できます。
この調査からは、人々が犬を迎える前に行なうリサーチの正確性を高めることが大きなテーマであることが示されました。
リサーチの正確性とは、現在では古いとされる情報や固定観念に影響されておらず、情報が新しいエビデンスに基づいているのかどうかということです。
インターネットや知人への相談といった手軽なリサーチ方法についての注意喚起や啓蒙の必要性も、リサーチの正確性を高めるために必要と考えられるもののひとつです。
専門家への相談の少なさもまた、リサーチの正確性における問題のひとつです。イギリスでは動物を飼う前の無料相談を受け付けている動物病院がありますが、その数は13%と少ないものです。さらにこのような動物病院があることを知らない人も多いようです。
獣医師だけでなく、ビヘイビアリストやドッグトレーナーなどへの相談がなぜ少ないのか、何が障壁になっているのかについても今後さらに調査が必要だとのことです。
まとめ
現在犬を飼っている人や、これから犬を迎えようと考えている人への調査から、犬を迎える前のリサーチ経験についての現状や問題点が浮き彫りになったという結果をご紹介しました。
これはイギリスでの調査結果ですが、情報収集にインターネットを使うことが当然である現代において、正しく公平な情報をどこで探すのかが重要であることは日本でも同じです。
ドッグトレーナーや動物保護団体、ブリーダーなど、犬の飼い主や飼い主候補と接する方々にとっても、この調査結果は重要なものだと感じます。
《参考URL》
https://www.mdpi.com/2076-2615/14/7/1033