人は犬に話しかける時と赤ちゃんに話しかける時、表情が違う?
多くの人は赤ちゃんに話しかける時に、高いピッチの声で大げさな抑揚をつけた話し方になります。赤ちゃん向けの話し方は『マザリーズ』と呼ばれ、赤ちゃんの発達に良い影響を及ぼすことがわかっています。
同様に犬に話しかける時にも、マザリーズとよく似た話し方になる人が多いこともわかっています。ピッチの高い声と大きな抑揚の話し方は、犬の注意をより惹きつけることも過去の研究から示されています。
一方、人が犬に話しかける時と赤ちゃんに話しかける時の視覚的な要素、つまり顔の表情については今までほとんど研究がなかったそうです。この点についてハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の生物学と心理学の研究チームが調査を行ない、その結果が発表されました。
23組の家族が対犬、対赤ちゃん、対妻または夫で話しかけ実験
この研究で調査されたのは、正確には表情ではなく「視覚的韻律」と呼ばれるものです。韻律とは言葉を話す際の音の上げ下げ、区切る位置、強弱、リズムなどの総称です。
言葉の韻律や内容によって、話者の顔の視覚情報がどのように変わるのかが調査されました。
調査のための実験に参加したのは一般募集された23家族からの46名(男女各23名)でした。参加条件は犬を飼っていることと、6〜18ヵ月齢の乳幼児がいることでした。実験はすべて参加者の自宅に研究者が訪れて行われました。
参加者は、対乳幼児、対愛犬、対配偶者という3種類の対象に向かって、以下のような3種類の対応をするよう求められました。
- 1分間、自分に対象者の注意を引きつける(方法に制限はない)
- 渡された物体と意味のない造語が書かれたカードを使って両者を関連づける説明をする
- 「見て!なんて良い天気!」「散歩に行きたい?」などの決められた定型文を読む
この様子は録音および録画され、話者の顔の表情筋の動きがフェイスリーダーのソフトウェアを使って分析されました。
人は犬に話しかける時の表情が最も弱かった!
話しかける人の顔の動きを分析した結果は、犬に対して話しかける時に視覚的なメリハリが最も弱いことを示していました。
中でも物体と単語を関連づけて説明するという課題を、犬に話しかける時に表情筋の動きが最も弱くなっていました。(これは確かに無表情になってしまうことが納得できますね。)
ハッピーな気持ちを表現する顔の動きは、乳幼児および配偶者に対して話しかける時に、犬に対して話しかけるよりも有意に強いこともわかりました。
研究者は乳幼児に向ける表情が最も高い強度を示すと予想していたのですが、参加者たちが配偶者に向けた表情は、予想以上に対乳幼児の表情と似ていたとのことです。特に驚きを表す表情は対配偶者の時に最も強くなっていました。
犬に対して話しかける時の表情はニュートラル(中立的)なものが最も多くなっていました。
このように、犬や赤ちゃんに話しかける時の音響的な韻律は両者よく似ているのに対して、顔の表情筋という視覚的な韻律では赤ちゃんには豊かな表情で、犬には中立的な表情でという対照的な結果が示されました。
つまり犬との会話中、飼い主の顔の動きはあまり関与していなかったということです。
この差異について研究者は、人間と犬の顔のコミュニケーションの違いを挙げています。人間が友好的であることを示す口角を上げて歯を見せる微笑みは、犬にとっては攻撃的な表情と関連しています。
また、人が大きく目を開けて白目がよく見える表情は、犬にとっては不安や恐怖を表すものです。これらのことを踏まえて、犬との異種間コミュニケーションにおいては、話者が表情を弱めたのではないかと推測しています。
まとめ
人が赤ちゃんに話しかける時、配偶者に話しかける時、犬に話しかける時の表情筋の動きを分析した結果、犬に話しかける時の表情が最も弱かったという調査結果をご紹介しました。
赤ちゃんに話しかける時と犬に話しかける時の話し方はよく似ているのに、顔の表情は対照的だというのは興味深い結果ですね。
研究者は、話しかける人と話しかけられた対象との関係性や愛着の強さなども、視覚的な表情に重要な役割を果たすと考え、今後さらに研究と再考を進めて行くとのことです。
《参考URL》
https://doi.org/10.1016/j.applanim.2024.106203