アメリカミズアブを原料としたドッグフードと口腔の健康
ペットフードにもサスティナビリティー(持続可能性)が求められることは広く知られるようになって来ました。それに伴って、タンパク質源として昆虫を使ったペットフードの開発や研究も増えています。
ペットフードの原材料として多く使われる昆虫は、ブラックソルジャーフライ(日本語ではアメリカミズアブ)の幼虫で食用に養殖されています。
ブラックソルジャーフライの幼虫をミールにしたものはBSFLミールと呼ばれ、このミールをベースにしたペットフードはヨーロッパで人気が高まっているそうです。
このたび、ブラジルのパライバ連邦大学とバイーア連邦大学、オランダのペットフードメーカーであるプロティクス社の研究チームが、BSFLミールのペットフードが犬の口腔の健康に果たす役割を調査し、その結果が発表されました。
昆虫ベースとチキンベースのフードで口の環境を比較
研究は8頭のメスのビーグルを対象にして行われました。犬たちは2つのグループに分けられて、2種類の総合栄養食(BSFLミールまたはチキンミール)のドライフードを各50日間ずつ与えられました。
1つのグループは最初にBSFLミールのフード、次にチキンミールを使ったフードを。もう1つのグループは最初にチキンミール、次にBSFLミールのフードをそれぞれ50日間食べたといいます。
50日の給餌期間を終えたところで犬の歯垢および唾液のサンプルを取り、2つの項目がチェックされました。
まず1つめの項目として、歯垢中の揮発性硫黄化合物産生細菌のコロニー形成単位数が調査されました。揮発性硫黄化合物とは、口臭の主な原因となる物質です。
口の中の食物のカスや犬自身の細胞などのタンパク質を、口腔内の細菌が分解することで産生されます。この臭いの元や歯周病の原因にもつながる物質を作る細菌の数を調べたというわけです。
2つめの項目は、口腔内の細菌の組成を分析するために、唾液から細菌のDNAを抽出し分析が行われました。最後に50日間どちらかのフードを食べた後の犬たちの口臭が被験者によって評価されました。
口腔内の悪玉菌が減り、口臭も改善!
分析の結果、50日間BSFLミールのフードを食べた後の犬の口の中は、揮発性硫黄化合物を産生する細菌が有意に減少していました。
さらに、唾液中の細菌叢ではモラクセラ菌の量が増加していました。モラクセラ菌群は口腔内常在菌の中でも口腔の健康のマーカーであり、口腔細菌叢にとって有益だと考えられています。
これらの効果は、BSFLミールに含まれる抗菌ペプチドと脂肪酸によるものだと推測されています。
被験者による口臭の程度の評価も、BSFLミールのフードを食べた後の評価は「ほとんど臭わない」であったのに対し、チキンミールのフードの後は「わずかだか臭う」というものでした。
研究者はこの調査結果を受けて、BSFLミールを使ったフードは犬の歯と歯茎の健康を増進し、口臭を改善する可能性があると結論づけています。
まとめ
アメリカミズアブを原料としたドッグフードを50日間与えられた犬は、口腔内の悪玉菌が減少して善玉菌が増加、口臭も改善したという調査結果をご紹介しました。
昆虫を原料としたペットフードは、消化性や栄養バランスについては高い評価を得ており、生産における土地や水の使用量とCO2排出量の少なさでも注目されています。
今回の研究結果は、さらに犬の歯と歯茎の健康という大きなメリットを追加するものとなりました。日本ではまだ一般的ではありませんが、今後市場に出てきた時には一度は試してみたくなる報告ですね。
《参考URL》
https://brill.com/view/journals/jiff/aop/article-10.1163-23524588-20230098/article-10.1163-23524588-20230098.xml?language=en
https://www.petfoodindustry.com/insect-based-cat-and-dog-food/news/15665641/study-insect-ingredients-can-help-improve-dental-health-in-dogs