犬のしつけで言われている叱る・褒めるを行動の学問から考える
犬のしつけで言われている叱る・褒めるというのは、行動の学問である応用行動分析学によって説明することができます。
なぜ叱ることに意味はなく、動物福祉の低下にもつながるのかを知るためには、まずこの応用行動分析学を知っておくことがおすすめです。
そこで、行動の学問である応用行動分析学にあてはめてまずは説明しましょう。
まず『叱る・褒める』というのは、応用行動分析学では『叱る=嫌悪刺激』『褒める=強化子』という機能をもちます。
嫌悪刺激とは、犬にとって「嫌だ・怖い・不安・恐怖・痛い」など、ネガティブな印象を与えるもののこと。
一方で強化子とは、犬にとって「うれしい・楽しい・大好き」となるポジティブなものです。
また、この反応が増えることを応用行動分析学では『強化』と言い、逆に減ることを『弱化』と言います。
犬に増やしてほしい行動があるなら意味のあるメリットを提供しよう
例えば、おすわりと言っておすわりをしたらおやつがもらえたとします。
犬が「座るとおやつがもらえる(嬉しい)から、またおすわりと言われたら座ろう」と考え、おすわりと言われたら座るという反応が増えたら、おやつが強化子(褒め)として機能したということです。
しかし、おすわりと言って犬が座ったときに「いいこね」と言葉で褒めるだけだとします。
もし「いいこね」と褒めるだけでもおすわりと言われたら座るという反応が増えているのであれば、それは「いいこね」と褒めることが強化子として機能していると判断できますが、恐らくそれだけではうまくいかないケースも少なくないでしょう。
なぜなら、食べ物は犬にとって命に関わる資源ということもあり、大きな報酬として機能しやすいですが、人が「いいこね」と褒め言葉を伝えても、それが犬にとっておすわりが強化されるだけのメリットとして機能しないことが多いからです。
メリットとして機能していなければ、「座っても別にいいことはないからやらない」と犬はなるでしょう。
そうなると人は「褒めるだけでは効果がない」と考えるのです。
そこから「やはり指示に従わないことは悪いことだと教えなければいけない、だから叱る必要もある」と考えてしまう人もいるのですが、これがまさに嫌悪刺激を与えてコントロールするという構図です。
ですが思い出してください。犬は反応の後にメリットがあればその反応は増えるようになります。
つまり、反応が増えないということはメリットとして機能していないだけの話なので、メリットとして機能する強化子(ご褒美)を提供するように変えればいいのです。
それをするだけで犬は座るという反応が増え、楽しみながら取り組めるはずです。
正しく動物福祉とABAを学んで犬と楽しみながらしつけを取り組もう
応用行動分析学はよくABAと略されますが、このABAを正しく学ぶことで論理的にしつけについて考えることができます。
また、ABAを理解することができると言葉に惑わされることなく、動物福祉についても冷静に考えることができるようにもなるのです。
先にお話したように犬を叱る必要はなく、強化子として機能するものを褒める道具として使うことができれば、犬も人も楽しみながらしつけに取り組むことができます。
たとえ同じ『すわる』という反応でも、犬が「嫌なことが起こってほしくないから座ろう」と考えるのと、「座るとうれしいことがあるから座ろう!」と考えるのとでは、心の状態に大きな差がありますよね。
動物福祉とは肉体的にも精神的にも、プラスの状態が増えることで評価されるものであり、私たち人間は動物福祉の向上を目的にした取り組みを意識しなければなりません。
しかし、犬に不安や恐怖を与えるための叱る行為は、プラスではなくマイナスの取り組みです。それでは動物福祉の向上にはなりませんよね。
正しく応用行動分析学と動物福祉を理解し、犬と人の双方がポジティブでハッピーな気持ちになれる取り組みをしていきましょう。
まとめ
褒めるしつけと言われるものは、応用行動分析学の考えから適切なタイミングで犬にとってのメリットを提供することで、ある反応が増えていくというものです。
叱る必要がなければ人も犬も楽しいですし、動物福祉の向上にもつなげることができます。
しかし、それを正しく理解していないために「褒めるだけでは意味がない」と勘違いしてしまう人は少なくありません。
それはとても悲しくもったいないことでもあるため、ぜひ犬にとってメリットとなるものを提供し、楽しいしつけをしていきましょう。