乳歯遺残とは何?
一般的に子犬の歯は、6ヵ月齢くらいで抜けて永久歯に生え変わります。しかし中には抜けるはずの乳歯が残ったままで、永久歯が生えてしまう場合があります。このような状態をpersistent deciduous teeth (PDT)、日本語では乳歯遺残(にゅうしいざん)と呼びます。上の画像は犬の乳歯遺残の一例です。
本来なら1本の歯のためのスペースに2本の歯が存在するわけですから、噛み合わせのズレ、出血のリスク、重度の歯周病や歯肉感染症などの深刻な問題を引き起こす可能性があります。
このたび、イギリスのウォルサム・ペットケア・サイエンス研究所とベルギーのハッセルト大学の研究チームによって、アメリカの動物病院チェーンを受診データから、乳歯遺残の有病率、犬種、体格および体重との関連性を分析した結果が報告されました。
小型犬に高い有病率
この調査には、ウォルサム・ペットケア・サイエンス研究所と同じ系列企業であるアメリカの動物病院チェーンの、5年間にわたる約300万頭の犬の医療記録が使用されました。
調査期間を5年としたのは乳歯遺残の発症に、犬種、体格、体重が及ぼす影響を理解するためです。調査対象の60犬種は、超小型犬(6.5kg未満)から超大型犬(40kg以上)の6つの体重カテゴリーに分類して、乳歯遺残との関連が分析されました。
分析の結果、全体の有病率は7%でした。これは300万頭中の20万頭以上に匹敵しますので、決して小さい数字ではありません。
体のサイズとの関連では、乳歯遺残は超小型犬種で有意に多いことが確認されました。犬種別では、最も有病率が高かったのはヨークシャーテリアで25.1%、次いでトイプードルとマルチーズの14.8%、チワワの13.2%でした。
小型犬ほど乳歯遺残を発症しやすいという傾向は他の犬種でも顕著で、ポメラニアン、シーズー、ダックスフンド、パピヨン、ミニチュアピンシャー、ミニチュアシュナウザー、パグも高い有病率を示したといいます。
中型犬以上のサイズでは有病率は1%未満で、最も低かったのはグレイハウンドでした。
飼い主が注意するべきこととは?
この調査結果は、特定の犬種やサイズの犬が乳歯遺残になりやすいことを明らかにしており、歯科チェックを含めた定期的な健康診断の重要性も示しています。
動物病院で口の中をじっくりと診てもらえるように、普段から人間が歯や口を触ることに犬が協力してくれるようトレーニングしておくことが大切です。
『ハズバンダリートレーニング』や『ケアトレーニング』などの名称で検索すると、いろいろな情報を集めることができます。
また飼い主さん自身が乳歯遺残を見つけた時には、決して自分で抜かないで動物病院での処置を受けてください。家庭で抜こうとして歯が途中で折れたり、根っこの部分だけが残ってしまうと、さらに処置がたいへんになってしまうからです。
乳歯遺残がなくても、小型犬は歯の問題が多い傾向にあるという報告もあります。普段から愛犬のデンタルケアを怠らないようにしてあげたいですね。
まとめ
アメリカの獣医療データの分析から、乳歯遺残は小型犬での有病率が高いことが示されたという報告をご紹介しました。
乳歯遺残を早期に発見して除去することで、関連する健康リスクを大幅に軽減することができます。特にリスクが高いとされる犬種と暮らしている人は、歯の検査を含めた獣医師による定期検診を受けることが大切です。
《参考URL》
https://doi.org/10.1016/j.rvsc.2024.105161