違うタイプのトレーニングは犬の認知機能に影響するだろうか?
犬はトレーニングの経験によって、認知機能が高まることは過去の研究からわかっています。しかしこれらの研究は、高度なトレーニングを受けた職業犬やスポーツ犬と、トレーニング未経験の家庭犬との比較が中心となっていました。
一方、トレーニングのタイプが犬の認知機能に及ぼす影響の違いについては、ほとんど研究がありませんでした。
この点について、イギリスのアベリストウィス大学生命科学部とドッグトレーニングの会社パピープラスの研究チームが、違うタイプのトレーニングを受けた犬に2種類のテストを実施し、その結果が発表されました。
3種類のトレーニング経験をテストで比較
テストへの参加者は地元のドッグトレーナーや、ドッグコミュニティが運営するソーシャルメディアを通じて募集されました。
応募者の中から40頭の犬がテストに参加しました。40頭のトレーニング経験の内訳は、トレーニング経験なし4頭、オビディエンス(服従訓練)17頭、ノーズワーク(嗅覚訓練)11頭、アジリティ8頭です。
3種のトレーニングは飼い主が参加する最も一般的なものとして選ばれ、参加犬は競技会レベルのトレーニングを受けた犬たちです。
犬たちはテストのためのトレーニングを終えた後に、2種類のテストを受けました。
最初のテストは、うつ伏せに並べられたABC3つのカップがあり、犬の目の前でBまたはCのカップにトリーツを入れ、リリースされた犬がトリーツの入ったカップにたどり着くかどうかというものです。
ただし、トレーニング段階では常にAのカップの下にトリーツが入っており、犬はトリーツが入っているのはAのカップだと学習しています。この学習の記憶を抑制して、目の前で見た正しいカップにたどり着けるかどうかがポイントです。
もうひとつのテストは、トリーツの入ったボウルの前に透明な板を立ててバリアを作り、犬はバリアを迂回してトリーツにたどり着けるかどうかというものです。トレーニング段階ではバリアなしで、犬はボウルの中のトリーツを食べてもよいことを学習しています。
ノーズワークの経験犬はテストの成績が高かった
2つのテストの結果は、両方においてノーズワークのトレーニングを受けた犬たちが有意に良い成績を出しました。
この結果は、ノーズワークのタスクは犬の自立性と、周囲の環境に惑わされない抑制能力が求められるからだと研究者は考えています。
匂いを辿って目標に辿り着くというタスクは、ハンドラーに依存することなく犬が自分で考えて行動を選択する必要があるため、自立性と抑制能力が鍛えられます。
一方、アジリティやオビディエンスでは、犬は複数の異なる行動を求められるため、次にどの行動を取るべきなのかはハンドラーの合図に頼ることになります。そのため、自主的に考えて行動しなくてはならないテストの結果に違いが出たのではないかと考えられます。
ノーズワークのトレーニングが犬の認知機能に良い影響を及ぼすということは、嗅覚を使った活動は犬の脳に刺激を与えることを示しています。また過去の別の研究では、ノーズワークのトレーニングは犬の思考を楽天的な傾向にすることもわかっています。
競技会のレベルとは言わずとも、自宅でフードやトリーツを隠して犬が自主的に探すという遊びだけでも犬の脳と精神に良い刺激を与えることができるので、ぜひ取り入れたいものです。
まとめ
ノーズワーク、アジリティ、オビディエンスの3つの違うトレーニング経験を持つ犬たちが認知機能テストを受けた結果、ノーズワークを経験した犬の成績が有意に高かったという結果をご紹介しました。
研究者は、今後は違うタイプのタスクにおいてもトレーニング経験が影響を与えるのかどうか、長期的な研究を行なうことでトレーニング経験による認知機能が時間とともにどのように変化するのかなどについて、さらに研究を進めていくとのことです。
《参考URL》
https://doi.org/10.3390/ani14030428