パンデミックパピーの福祉や健康を継続的に調査
コロナ禍の最中の時期、ご存知の通り世界の多くの国で外出を禁止するロックダウンが行われました。そして在宅時間が長くなったことや孤独を癒すためにペットを迎える人が増え、日本も含めた多くの国でペットブームが起こりました。
イギリスの王立獣医科大学では、コロナ禍中に迎えられた犬を「パンデミックパピー」と名付け、これらの犬の福祉や健康について継続的に調査や研究を実施しています。
この度は、イギリスの最も大きい動物保護団体のひとつであるバタシー・ドッグズ&キャッツ・ホームからの資金提供により、パンデミックパピーのトレーニングに関する危険因子を特定するための調査が実施されました。
パンデミックパピーの飼い主1,000人以上に犬の行動や訓練について質問
この調査の対象は2020年のコロナ禍の際に、イギリス国内のブリーダーから16週齢未満で購入された子犬です。飼い主からの回答はオンライン調査によって集められ、1,007件の有効な回答が得られました。
調査の内容は、飼い主が問題だと考える犬の行動、使っているトレーニング方法、行動とトレーニングに対する期待と現実、犬が21ヵ月齢に達した時の行動、21ヵ月齢の時点でのトレーニングに関する専門家へのアドバイスの求め方などです。
21ヵ月齢というのは、問題行動が原因で飼い主が犬を手放す決断をするリスクが高まる月齢と言われています。
飼い主が問題だと考える犬の行動として24の行動がリストアップされ、回答者は当てはまるものを選択する方式です。
その内容は要求行動(リードを引っ張るなど)、注目を求める行動(飛びつく、まとわりつく、など)、攻撃行動(他の犬や人に対して、食べ物に関して、など)、恐怖/不安行動(他の犬や人、大きな音、分離不安など)の4つの分野に分けられ、それぞれ回答されました。
5人中4人が罰を使うトレーニング方法を行なっていた!
飼い主が問題だと考える行動では、97%の人が愛犬はリストの中から少なくとも1つの行動を示したと回答しました。21ヵ月齢での問題行動の数は平均5つでしたが、20%の人は8つ以上あると回答しました。
飼い主が問題だと考える最も一般的な3つの行動は、リードを引っ張る(67%)、人に飛びつく(57%)、呼ばれても戻って来ない(52%)だったそうです。
問題行動の4つの分野では、要求行動84%、注目を求める行動77%、恐怖/不安行動41%、攻撃行動25%という結果でした。
犬のトレーニング方法についての質問では、96%の人が「言葉で犬を褒める」を挙げましたが、80%の人は「罰を与える方法」「罰を与える道具」を使用したと回答したといいます。
罰を与える方法の具体的な内容は、人や家具に飛びついた時に押し退ける44%、大きな声で叱る41%、リードを引いて矯正40%が最も多く、その他には、コインや小石を入れた缶を振る、水鉄砲や水スプレー、チョークチェーンなどがありました。
好ましくない行動に対して、「罰を使うトレーニングには頼らない」と答えた人はわずか18%という結果でした。また、子犬の時期にオンラインのトレーニングクラスに参加した人は、罰を使う方法を使用するリスクが低いこともわかりました。
なぜ罰を使うトレーニング方法が良くないのか
調査結果を総合的に分析すると、罰を使うトレーニング方法を使っている飼い主の犬ほど、問題とされる行動が多いことがわかりました。
「罰を使う」というと叩くなどの体罰に限定して考える人が多いのですが、怒鳴る、大きな音を出す、人間がリードを引っ張るなど、犬にとって「嫌悪的な刺激」を与えることは「罰を使う」に該当しますので、嫌悪刺激のトレーニングと呼んでいきます。
嫌悪刺激のトレーニングが良くない理由には次のようなものがあります。
- 犬に恐怖や混乱を与える
- 効果が低い
- 攻撃な行動を増加させる
体罰はもちろんのこと、大きな声や音は犬にとって恐怖や混乱というストレスを与えます。動物はストレス下では、学習能力が低下するためトレーニングの効果も上がりません。
また、恐怖や不安を感じた時に逃げ場がないと、犬は自分の身を守るために攻撃に転じます。さらに嫌悪刺激を与えることで、犬と飼い主の絆を損ないます。嫌悪刺激を使うトレーニングには何も良い点がありません。
飼い主が問題だと考える行動の多くは、犬が適切な反応を教えられていない場合に起こります。そのような時に効果的なのは、犬が適切な反応をとった時にトリーツなどのご褒美を与えて、その行動を定着させていく「報酬ベースのトレーニング方法」です。
嫌悪刺激のトレーニングよりも報酬ベースのトレーニングの方が、効果的であるという科学的な研究結果は数多く報告されています。報酬ベースのトレーニング方法が、人道的で犬の福祉を損なわないことは言うまでもありません。
まとめ
イギリスでの調査から、パンデミック期間中に迎えられた子犬は、21ヵ月齢の時点での問題行動が多く見られ、飼い主は嫌悪刺激のトレーニング方法を使う人が多いという結果をご紹介しました。
このような調査は、犬の問題行動が発生する危険因子についての理解を深め、飼い主に適切なアドバイスを提供するために重要な意味を持ちます。今回の結果からは、犬を迎えた人が早い時期に人道的で効果的なトレーニング方法を学ぶことの価値が示されました。