より簡便で人道的な動物の識別方法の開発
現在ペット動物の個体識別には、マイクロチップやタトゥーが利用されています。最も一般的であるのはマイクロチップですが、挿入するための処置が必要で、読み取りにも特殊な装置が必要です。装着されているかどうかも外部からはわからないというデメリットもあります。
タトゥーはペット動物よりも家畜動物において一般的で、ペット動物には積極的に推奨されていません。犬や猫にタトゥーを施す際の明確な医療基準が定められていないからです。
処置の際には全身麻酔または強い鎮静剤が必要で、処置のあともしばらく炎症があるなど動物への負担もあります。
このたび東京大学生産技術研究所の研究チームによって、より安全簡単で人道的な動物の識別方法として、マイクロニードルパッチを使って皮膚に文字パターンを表示させる方法を開発したという発表がありました。
皮膚にパッチを貼り付けるだけで処置が完了?
この方法は動物の終生識別のために、肉眼で見える文字や数字のパターンを動物の皮膚上にインクで表示させるというものです。タトゥーと違って麻酔や施術を必要とせず、動物にも痛みがないのが大きな特長です。
マイクロニードルパッチとはその名のとおり、長さ1ミリメートル以下の微小な針構造体を持つ貼り付けパッチです。
医薬品や美容成分を皮膚に浸透させる方法として実用化されていますが、この研究ではマイクロニードルによってパッチ上に文字などのパターンを表示させています。
パッチを動物の皮膚に貼り付けると針構造体が皮膚内に溶け出し、内部の不活性インクがパターンの形で皮膚内部に残存するという仕組みです。インクはさまざまな色を用いることができるので、非常に多くのパターンを形成することができます。
マイクロニードルパッチ上に表示するパターンの鋳型作成に3Dプリンターを用いることで、安価で手軽に特定のパターンを持つ鋳型の作成が実現されました。
タトゥーのように一目で情報が伝達できる上に、処置は貼り付けるだけという動物への負担の少なさから実用化が期待されます。
個体識別としてのマイクロニードルパッチの今後の課題
良いことづくめに見えるマイクロニードルパッチですが、まだ今後の課題は残っているそうです。
実験段階では施術後1ヶ月でも鮮明にパターンが読み取れたそうですが、パターンの欠損やズレが生じることもあるため、文字設計の改良や追加的な固定ツールの導入が検討されているそうです。
また、対象が動物ですから被毛の問題は切り離せません。インクを確実に浸透させるためには毛の刈り込みが必要になります。耳など毛の少ない場所を選択することが解決策として考えられますが、これも犬種や猫種によって異なるので今後の課題となります。
皮膚の炎症反応についても今のところ安全が確認されていますが、今後さらに研究が続けられるとのことです。
まとめ
ペット動物や家畜動物の個体識別の方法として、マイクロニードルパッチを使ってインクを皮膚に浸透させて文字や数字を表示するという方法が開発されたことをご紹介しました。
大きな災害など予期せぬ事態で、愛犬や愛猫と離れてしまう可能性は誰にでもあります。災害時などは特にマイクロチップの読み取りは制限されることが予想されますので、動物に負担の少ない方法で、一目でわかる識別方法が開発されることは非常にありがたいと感じます。
一般のペットに実用化されるのはまだ少し先のことになりそうですが、今後の研究の結果が楽しみです。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-023-50343-6