犬の運動機能低下に気づくためのツール開発
犬も人間と同じように加齢とともに運動機能が低下します。運動機能の低下が変形性関節症のように日常動作の困難や痛みを伴うものである場合、犬の生活の質に大きく影響するため早期発見が重要です。
変形性関節症を含めて運動機能の低下は、加齢だけが原因ではない場合もあり若い犬にも起こり得ることですから、飼い主による観察は治療につなげるための大切な決め手となります。
イギリスのリバプール大学獣医学部と、イギリス最大の犬保護団体であるドッグズトラストのリサーチ部門の研究チームは、犬が運動機能に問題を抱えているかどうかを判断するための質問票を開発し、発表しました。
イギリスの犬の約50%は、8歳から13歳の間にある程度の運動機能低下が診断されていると考えられています。このような診断のための質問票はすでにあるのですが、現在の質問票では、問題が深刻になってからしか運動機能の低下を察知することができません。
新しく開発された質問票は、その点をどのようにカバーしているのでしょうか。
整形外科的な検査結果と質問票への回答を比較分析
質問票を開発するための調査には、62頭の家庭犬と飼い主が参加しました。犬の飼い主はリンカーン大学関連施設のスタッフに限定されました。これは調査期間がコロナ禍の最中であったため、一般市民からの募集が困難だったためです。
犬たちは研究チームの獣医師によって、歩行テストや関節の診察など整形外科的な臨床検査を受け、それぞれの犬の運動機能障害の状態が、「0=全く問題なし」から「15=重度の障害」までスコア化されました。
このように個々の犬の運動機能の状態を詳細に把握した上で、飼い主には従来の運動機能に関する質問票と、新しく開発された質問票に回答してもらいました。
新しい質問票は『GenPup-M』と名付けられています。これはドッグズトラストがブリストル大学と共同で取り組んでいる研究プロジェクトであるジェネレーションパップGeneration Pupにちなんだものです。
ジェネレーションパップは、一般の飼い主が参加して愛犬の生体サンプル提供やアンケートへの回答を通じて、犬の一生を通じてのデータベースを構築することを目的としています。
新しい質問票GenPup-Mに大きな期待
飼い主が回答した2種の質問票と臨床検査の結果を比べて分析したところ、GenPup-Mの質問票では発症初期を含む全ての運動機能障害を検出できることが示されました。GenPup-Mの一連の質問への回答は、犬の運動機能の問題を正確に特定できるということです。
研究者は新しい質問票の使い方として、毎年の健康診断やワクチン接種の際に飼い主に記入してもらうことを提案しています。若いうちから定期的に回答することで飼い主も変化に気づきやすくなりますし、獣医師の早期診断を助けることにもなります。
質問票という形態は、障害の早期発見ツールとして非常に優れています。動物病院では特別な機器を必要とせず、飼い主にとっては手軽で安価、犬にとっては何の負担もない上に、運動機能の微妙な変化をも検出することができるからです。
研究チームはこの質問票を誰もが無料で使えるアプリとして開発するため、さらに改良を重ねていくそうです。動物病院への配布はもちろんのこと、動物保護団体や一般の飼い主が犬の健康チェックに利用することで、犬の健康と福祉の向上が期待されます。
まとめ
犬の運動機能の低下を発見するためのツールとして開発された新しい質問票は、初期の微妙な変化をも検出することができたという研究結果をご紹介しました。
イギリスでの話題ですが、開発が完了して普及することで日本でも使用できる日が来るかと思います。日本も含めて世界の多くの国で活用されるようになると良いですね。
《参考URL》
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0291035