HIV感染したペットの飼い主と医療へのアクセスについて調査
ペットを飼うことが心身の健康に良い影響を及ぼすということについて、数多くの研究が発表されています。それらはデータに裏打ちされており、実際に良い影響を体感している人も数多くいることと思います。
しかし、ペットがいることで飼い主が自分自身の健康を後回しにしてしまうという事態も少なくはありません。
このことについてアメリカのフロリダ大学公衆衛生学の研究チームが、HIVに感染したペットの飼い主と医療へのアクセスについての調査を行ない、その結果が報告されました。
HIV以外の病気でも共通する面が数多くあり、ペットと暮らす人なら考えておきたい問題です。
研究参加者への質問項目の考えさせられる内容
この研究には、204名のペットを飼っているHIV感染者が参加しました。参加者はフロリダ州の医療施設などで募集された人たちです。
参加者の57%が男性、40%が女性、3%がその他の性別でした。犬を飼っている人は70%、猫を飼っている人は39%でした。
調査は参加者がペットに関する一連の質問に回答するという形で、以下のような質問項目が設定されていました。
- ペットの存在が医療を受けるか受けないかの決断に影響したか(12項目)
- ペットの存在がどれだけ心の慰めになったか(12項目)
- 個人への社会的支援についてどのくらい知っているか(12項目)
- 医療の障壁としてのペットの存在
これらについて、経験したことがあるか、または将来経験すると予想されるか、などが質問されました。
ペットとの絆の強い人ほど、医療を受ける障壁を予想
参加者からの回答を分析したところ、17%の人が医療を受ける際にペットに関連した障壁を経験したことがあると答え、31%の人が将来医療障壁を経験することが予想されるという結果が出ました。
回答の一例は
- ペットの世話ができないのであれば医療を受けるのを遅らせる
- ペットがいるので入院を拒否する
- ペットを飼っているため、自分の医療費の支払い能力に影響がある
また、ペットから受け取る慰めが大きくペットとの絆の強い人ほど、将来ペット関連の医療障壁を経験するだろうと考える傾向が強いこともわかりました。
このようにHIV感染者のペットの飼い主にとって、ペットの存在が医療を受ける障壁になり得ることが明らかになったのですが、この研究は決して疾患を持つ人がペットを飼うことは好ましくないとか、ペットを取り上げることを後押しするものではありません。
医療を受ける障壁となる可能性とは裏腹に、ペットがHIV感染者にとって重要な精神的支えになる可能性を示す過去の研究結果もあることから、入院中のペットの一時預かり、ペットフードやペット用品の支給など、社会的なセーフティネットの構築と地域社会との連携を推奨しています。
まとめ
HIVに感染したペットの飼い主への調査から、ペットがいるために自分自身が医療を受けることの障壁を経験したり予想したりする人が少なくないという結果をご紹介しました。
HIVはかつては死の宣告と考えられていましたが、現在では適切な投薬によって通常の寿命を保つことが可能です。つまり他にも数多くある慢性疾患などと同様の側面を持つということです。
さらに慢性疾患ではない急性の病気でも、ペットがいるために入院や検査を拒否するという例もあります。
この研究の著者も述べているとおり、病気になった時のペットの世話は自分自身の備えだけでなく社会的なサポートが重要です。
病気の人や彼らのペットを切り捨てるのではなく、支え合う社会であることがなぜ大切なのか、考えるきっかけになる話題ではないかと思います。
《参考URL》
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0292658