唸ることは犬の意思表示のひとつ
私たち人間が他者とのコミュニケーションを図る際に、主に利用するのは言葉(言語)です。しかし話している本人は意図していなくても、顔の表情や手振りなどの非言語によるコミュニケーションも、かなり大きな影響を与えていることが分かっています。
人間のように言語を持たない動物たちは、表情や姿勢、耳や尻尾、被毛の逆立て方などの非言語によるコミュニケーションがメインとなります。もちろんその中には、「声」も含まれます。「唸る」というのも犬の意思表示の一つで、主に「威嚇」や「恐怖」を伝えるために使われます。
しかし、唸るのは必ずしも威嚇や恐怖のためだけとは限りません。犬の場合、唸る主な理由として、「警戒・恐怖心」や「威嚇」の他に、「身体的な痛み」や「興奮」があることも分かってきています。
例えば、愛犬がおもちゃを使ってひとり遊びをしていたり、飼い主さんと一緒におもちゃを使って遊んでいる時に、おもちゃに唸っている光景を目にしたことがあるのではないでしょうか。「遊んでいるのになぜ唸っているのだろう?」と思われた方も多いはずです。
今回は、犬がおもちゃに唸っている時の心理や、その際に注意すべきポイントについて考えます。
犬がおもちゃに唸っている時の心理
では、犬がおもちゃに唸っているときの心理について解説していきましょう。
1.興奮している
犬は肉食動物なので、本能として「狩猟欲求」を持っています。生きていく上で最も興味を惹かれるのが「狩猟」であり、常に技術を磨かなければなりません。
そのため、子犬の頃から犬にとっての遊びは「狩りのシミュレーション」であり、遊びを通して狩りに必要な技術を身につけていくのです。
その際、おもちゃが果たす役割が「獲物」です。犬たちはおもちゃを獲物に見立て、追いかけ、咬み付き、振り回し、運んで遊びます。
実際、遊んでいる内にどんどん興奮していき、次第に本気モードになっていくことがあります。その際、興奮した犬は獲物であるおもちゃに唸り声をあげてしまうのだと考えられます。
2.楽しい
犬が興奮するのは、何も攻撃的な気分になっている時だけとは限りません。
嬉しいとか楽しいといった、ポジティブな気持ちの時も興奮します。日中出かけていた飼い主さんが帰宅すると、ちぎれんばかりに尾を振って大歓迎してくれる愛犬の様子を見れば、嬉しくて興奮するというのも頷けるのではないでしょうか。
愛犬がおもちゃを使って遊んでいる時に、とても楽しくて興奮してしまい、思わず唸り声が漏れてしまうことがあります。特におもちゃでひとり遊びをしている時に多いようです。
なお、犬が楽しいと感じている時には、マズルにシワを寄せておらず、唸り声も短くて小さめなことが多いです。
3.取られまいと警戒している
引っ張りっこのように、愛犬と飼い主さんとがおもちゃを引っ張りあって遊んでいるような時に唸り声をあげ始めたときには、「取られてなるものか」という警戒心から唸っていることがあります。
モノに対する所有欲が強い犬が多く、特にお気に入りのおもちゃを飼い主さんが取り上げて遊びを終わらせようとしているような場合は、その可能性が高いでしょう。
4.偽妊娠による母性本能
避妊手術をしていないメスの場合、偽妊娠になることがあります。実際には妊娠していないのに、ホルモンのバランスにより体が妊娠したような状態になることです。特別病気だというわけではなく、どの犬でも発情後になる可能性がある状態です。
偽妊娠になると、ぬいぐるみなどのおもちゃを母犬のように世話をすることがあり、この場合に飼い主さんがおもちゃを取ろうとすると、子犬を取られてしまうように反応して威嚇のために唸ることがあります。時間の経過とともに治まりますが、気になる場合は動物病院で相談すると良いでしょう。
おもちゃを咥えて唸っている時の注意点
おもちゃを咥えて唸っている場合、唸っている心理状態によっては、攻撃的になり危険な場合があります。唸っている様子をよく観察し、どういう心理状態なのかを見極めることが大切です。
単に楽しんで唸り声が漏れてしまっているだけなのであれば、そのまま遊ばせていても問題ありません。
ただし徐々に興奮してしまい、興奮がエスカレートしそうな場合、もしくはエスカレートしてしまっている場合は、一旦遊びを中断させてクールダウンさせましょう。落ちついた状態に戻った後で、また遊びを再開すれば問題ありません。
おもちゃを取られまいと威嚇している場合は、無理に取り上げようとしてはいけません。たとえ飼い主さんであっても、本気モードで威嚇し、咬み付こうとすることがあるからです。普段から、遊びながらおやつを上手に利用して「チョウダイ」という指示で咥えているものを離すようにトレーニングしておくことをおすすめします。
まとめ
おもちゃに唸っている場合、ただ楽しんでいるケースもあれば、本気モードで興奮してしまったり、飼い主さんにおもちゃを取り上げられまいと警戒していたりと、いろいろな心理状態であることが分かりました。
ただ楽しんでいるだけであれば構いませんが、徐々に興奮の度合いがエスカレートしてきたり、本気で取られまいとしている場合は、飼い主さんであっても無理やり取り上げるのは危険です。
愛犬の様子をよく観察し、おもちゃに対して唸っているときの心理状態を正しく見極めて、適切な対応を取るようにしましょう。