犬とオオカミの瞳の色を比較
動物の目は種によってさまざまな違いがあります。それらの違いは、コミュニケーション方法や環境要因などによって形成されてきたことが過去の研究からわかっています。
では私たちにとって最も身近であり、最古の家畜化動物である犬の目は、近縁であるオオカミと比較して明らかに違う点があるのでしょうか。
このたび帝京科学大学アニマルサイエンス学科と昭和大学自然生物学研究所の研究チームが、犬とオオカミの目を比較した結果や、その違いによって人間が受け取る印象、それが動物に対する人間の態度に影響を与えるかどうかを検証した結果を発表しました。
犬の瞳がオオカミよりも色が濃い理由を推測
研究チームはまず22頭のハイイロオオカミと、81頭のさまざまな犬種の飼い犬の高解像度の顔画像を分析しました。
両者ともに眼球周辺が確認でき、屋外の自然光で撮影された画像が選ばれました。オオカミは多岐にわたる撮影地からの黒や白などさまざまな毛色の個体が含まれ、犬は虹彩(眼球の色が付いている部分)の色のバラエティを揃えるため35のメジャー犬種が含まれていました。
分析の結果、ほぼ全ての犬の虹彩の色はオオカミよりも有意に濃く、赤みを帯びていることがわかりました。このことは犬が家畜化されてからの何千年もの間、目の色が濃い犬が人為的に意図して選ばれてきた可能性を示しています。
犬の黒っぽい目は友好的な印象を与える
研究チームはさらに、なぜ目の色が濃い犬が選択されてきたのか理由を探るために、犬の目の色が、人間から犬に対する感覚に及ぼす影響を検証しました。
検証のために、ラブラドール2頭、柴犬、ヴィズラ、ワイマラナー、コーギーと、6頭の雑種犬の顔画像を加工して、それぞれ黒っぽい目と黄色っぽい目の2バージョン合計24枚の画像をを作成。
これを142名のボランティア参加者に見せて、友好性、攻撃性、成熟性、知性などさまざまな特性について評価してもらいました。
その結果、目の色が黒いバージョンでは、友好的で人懐っこい攻撃的ではないという評価が多いことがわかりました。また興味深いことに、黒っぽい目は未熟で子犬っぽいという評価にもつながることがわかりました。
参加者による評価の分析結果は、「現代の犬の黒っぽい目の色は、オオカミから犬への家畜化の際に人為的に選択されてきた可能性がある」という仮説を支持するものです。
研究者は「黒っぽい目の犬は、人間に対して友好的なシグナルを送る顔の特徴を獲得することによって、進化的に適応してきた可能性がある」という最新の仮説を提供しています。
また犬とオオカミの目の比較分析では、遺伝的にオオカミに近い古代タイプの犬種(秋田犬、アラスカンマラミュートなど)で犬種スタンダードが濃い色の目である犬も含まれていたことから、犬の黒っぽい目は家畜化の初期段階でオオカミから分岐して出現したと考えられるとのことです。
一方、オオカミは集団で狩りをする際などに素早くアイコンタクトを取るために、虹彩の色が薄く瞳孔とのコントラストがはっきりした目に進化したと考えられます。
まとめ
犬とオオカミの目を比較すると、犬の目はほとんどの場合オオカミよりも有意に色が濃いこと、人間は黒っぽく濃い色の目をした犬に友好的な印象を持ちやすいという研究結果をご紹介しました。
研究者はシベリアンハスキーの青い目のような顕著な例外があることや、犬の生息地域が南下する過程でメラニンを合成する能力を獲得したことについても言及しています。
今後はさらに、犬の目の解剖学的研究や人間の犬に対する認識では、行動指標を用いた研究などが必要とのことです。
《参考URL》
https://doi.org/10.1098/rsos.230854