慢性的な腸の具合の悪さとフードの関係を調査
ほとんど常にお腹が緩いなど、愛犬の慢性腸疾患に悩む飼い主さんは少なくありません。しかし慢性腸疾患の原因や、治療法における食事の役割はまだ解明されていないのだそうです。
このたびアメリカのコーネル大学獣医学部の研究チームが、慢性腸症の犬においてフードの原材料と症状との関連について給餌調査を実施し、その結果が報告されました。
犬の慢性腸疾患には、蛋白漏出性腸症と非蛋白漏出性があります。蛋白漏出性とは、その名の通りタンパク質が消化管から漏れ出してしまっている状態の腸症で、その原因は炎症性腸疾患(IBD)や悪性腫瘍などさまざまです。
ここで紹介する研究では、蛋白漏出性と非漏出性両方のタイプの慢性腸症を対象にしています。
3種類のフードで反応を比較観察
調査に参加したのは、同大学の動物病院で慢性腸症と診断された犬31頭です(31頭のうち23頭は非蛋白漏出性、8頭はより重症の蛋白漏出性)。
慢性腸症とは、寄生虫性、感染性、腫瘍性を除外し、消化管に消化器疾患の症状(嘔吐、下痢、体重減少など)が3週間以上存在することと定義されます。
犬たちに与えられたのは以下のような3種類のフードのうちのどれかです。3種類のフードはカロリーと栄養素の割合はほぼ同じですが、原材料に次のような違いがあるものです。
- 1.加水分解された魚、米デンプン、魚油、ウコン、高濃度ビタミンB12、プレバイオティクス
- 2.加水分解された魚、米デンプン、魚油、ウコン、高濃度ビタミンB12
- 3.加水分解されていない魚、鶏肉、油脂、トウモロコシ、原材料の種類は少なく限定的
1と2のフードは一般的に「低アレルギー食」と呼ばれる処方のものです。加水分解された魚とは、魚肉のタンパク質を酸や酵素を使って、アミノ酸またはペプチドにまで分解したものです。
タンパク質はたくさんのアミノ酸の分子がつながったもので、ペプチドは2〜50程度の少量のアミノ酸の分子がつながったものです。タンパク質がアミノ酸やペプチドのレベルにまで分解されるとアレルギーを起こさないため、アレルギー対応の処方食にはタンパク加水分解物が使われているものが多いです。
1と2のフードの違いはプレバイオティクス(腸内細菌のエサとして働く成分、食物繊維など)として働く、イヌリン(水溶性食物繊維のひとつ)が含まれているかどうかのみです。
3のフードには魚肉や鶏肉、トウモロコシなどアレルギーの原因となり得る原材料が使われていますが、市販のフードよりも限定的で少ない種類の原材料で作られたものです。
非蛋白漏出性の23頭には3種のフードのうちのどれかが無作為に割り当てられ、蛋白漏出性の8頭には加水分解された魚のフードが与えられました。
犬たちは、まず2週間それぞれの割り当てられたフードが与えられました。フードに対して良い反応があった場合はそのまま12週間与え続け、反応がなかった場合にはフードを別のものに変えて12週間与え、26週時点で追跡調査を行ないました。
全てのフードで良好な結果が得られた!
3種類のフードを与えた結果は、研究者自身も驚くものでした。3種類のどのフードでもほとんどの犬が良い結果を示したからです。
非蛋白漏出性の23頭のうち、19頭は最初に割り当てられたフードに良い反応を示し、疾患の活動性が低下し便の硬さが改善しました。最初のフードに無反応だった4頭は、別のフードに変更したところ症状が改善しました。
非蛋白漏出性で重症ではない慢性腸症の犬たちは、加水分解魚または原材料限定の食事療法で、長期の寛解(全治とまでは言えないが、病状が治まっておだやかであること)に至りました。
加水分解食を与えられた、より重症の蛋白漏出性腸症の8頭のうち7頭はこのフードを食べ始めてから体重が増加し、消化器症状が長期にわたって寛解しました。
研究者はこの結果を受けて、慢性腸症を発症した犬に対して免疫抑制剤などを使用する前に、いくつかの異なる食事療法を試してみるべきだと述べています。
まとめ
慢性腸症の犬に対して、加水分解した魚を使ったフードまたは加水分解していないが原材料の種類を限定したフードを与えたところ、ほとんどの犬の症状が改善したという調査結果をご紹介しました。
この調査では研究のために特別に作られたフードが使用されましたが、市販のフードにもタンパク加水分解物を使ったものや原材料限定のものが数多くあります。愛犬のお腹の不調に悩んでいる方は、かかりつけの獣医さんとこのような情報を共有することで解決策が見つかるかもしれません。
《参考URL》
https://doi.org/10.1111/jvim.16844