犬の消化器疾患を判断するための指標を開発
犬の消化器疾患は、動物病院を受診する理由の上位を占めるものです。また慢性的な消化管機能不全を持つ犬は全体の約2%とも言われますので、犬の消化器疾患が急性なのか慢性なのかを判断することは非常に重要です。
このたびアメリカのテキサスA&M大学、アイオワ州立大学、オレゴン州立大学、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校、ルイジアナ州立大学、フィンランドのヘルシンキ大学、ドイツのハノーバー獣医科大学、ルートヴィヒ・マクシミリアン大学、スロベニアのリュブリャナ大学、スウェーデンとスイスの獣医師の研究チームによって、犬の慢性消化管機能不全を評価するのに役立つ新しい診断指標を開発したという発表がありました。
ディスバイオシス指標は消化器疾患の指標となるかを検証
犬の糞便中のマイクロバイオーム(腸内細菌叢)の測定には、DNAショットガンシークエンスという方法を使ってゲノム配列決定が行われます。この方法ではウイルス、真菌、アーキア(古細菌)、機能性遺伝子に関するデータを提供し、相対量の変化を同定することができます。
一方、この研究の焦点となる「ディスバイオシス指標」に関連する定量PCRという方法では、特定の細菌を正確に定量化することができます。
ディスバイオシス指標は定量PCRの結果に基づいて、犬の消化管内で起きているディスバイオシスを時間軸で追跡する指標です。この指標が犬の消化管機能不全の診断指標となるかどうかを検証するのが、この研究の目的です。
ディスバイオシスとは腸内細菌の総数が著しく減少したり、その構成比が大幅に変化したり、通常は菌数レベルの低い菌種が異常に増加するなど、腸内細菌の構成が異常になった状態を指します。
研究チームは、さまざまな臨床的な病状を示す(健康な犬も含む)296頭の犬の糞便サンプルを、ショットガンシークエンスと定量PCR両方の方法で測定し、その相関性を検証しました。
その結果、ショットガンシークエンスと定量PCRの結果には有意な相関があることが認められましたが、さらに特定の細菌分類群は定量PCRによってのみ検出が可能であることもわかりました。
ディスバイオシス指標の未来への展望
定量PCRによる結果から、数学的アルゴリズムを使って腸内細菌叢の全体的な変化を正確に予測するのがディスバイオシス指標です。
この検証結果は、ディスバイオシス指標を使うことで腸内細菌叢の「正常な状態」と「異常な状態」を定義することができ、患者の腸内のシステムがいつ正常からずれたのかを知ることができる、つまり消化管疾患の診断指標となることを示しています。
腸内細菌叢の状態がいつ正常からずれてしまったのかを知ることは、その消化管疾患が急性なのか慢性なのかを判断するのに役立ちます。獣医師が患者の消化管の状態より的確に評価し、適切な治療法を選択することにつながります。
また、ディスバイオシス指標は消化管機能不全を持つ犬に用いるだけでなく、糞便微生物叢移植のドナーのスクリーニングにも使用できると考えられています。糞便微生物叢移植は、健康な犬の糞便を消化器疾患のある犬の腸に注入し、腸内環境を改善させる方法です。
さらに長期的には、消化器疾患の早期発見に役立つツールとしても活用できる方法を目指しているとのことです。
まとめ
大規模な研究チームによって開発された「ディスバイオシス指標」が、犬の消化管機能不全が急性なのか慢性なのかなどを判断する診断指標として有効であるという研究結果をご紹介しました。
研究の内容そのものはとても難しいのですが、悩んでいる飼い主さんや犬が多い慢性の消化器疾患の治療に希望が見えたことは素晴らしいですね。
一般の動物病院にも普及する日が早く来ればいいなと思います。
《参考URL》
https://doi.org/10.3390/ani13162597