猫も犬のように異種間コミュニケーションのモデルとなれるだろうか
犬と猫は私たち人間の人気を二分するポピュラーな2種です。そのため、この2つの種の動物がどの程度似ているのかについては、長年にわたって科学的な議論の種となってきました。(科学から離れた一般的な世論では「犬と猫はどちらが賢いか」という論争も古くからあります。)
異種間のコミュニケーションを研究する上で、犬は最も多く使われている種です。しかし近年は猫についての研究が増え、猫もいくつかの分野で犬と同様の能力を持っていることが判ってきています。ということは、猫も異種間コミュニケーションのモデルとなり得るのでしょうか。
ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の動物行動学と比較行動学の研究チームは、犬と猫を対象にして指差しジェスチャーのテストを行ない、その結果を比較しました。
犬と猫に指差しジェスチャーテストを実施
テストに参加したのは、同大学の研究プロジェクトに登録している犬と猫でした。猫は犬よりも環境の変化に敏感であるため、テストの前に実験室に馴れるため最高3回の訪問プロセスを経ました。
猫が実験室を探索し、見知らぬ人である実験者から食べ物を受け取るか、一緒に遊ぶかした場合に「馴れた」とみなされました。
犬にも同じことをしたところ犬の場合は100%が「馴れた」という結果だったのですが、猫は59.7%にとどまりました。実験室でのテスト本番に参加したのは「馴れた」とみなされた猫だけです。
指差しジェスチャーのテストは非常に単純で、犬または猫の正面に座った実験者が、左右に置かれた容器のうちトリーツの入っている方を指差すというものです。容器は実験者が指し示した指先から80cmの場所に置かれ、テストには33頭の猫と21頭の犬が参加しました。
犬と猫のテストの結果の違いは明白でした。犬はほぼ全ての試行で実験者の指差しジェスチャーを見てどちらかの容器を選択し、正解率も高いものでした。
猫の場合、どちらかの容器を選択した場合の正解率は、偶然のレベルを大きく上回るレベルだったのですが、実験者が指差しても全く選択しない場合が多く見られ、選択意欲は時間の経過とともに低下していきました。
犬はトリーツを得るために人間の指差しジェスチャーを頼ることに長けていますが、猫の場合は人間の指差しジェスチャーを利用するかどうかは、猫の選択意欲に任されていたと言えます。
自宅でのテストでも、やはり犬の成績が上だった
実験室という不慣れな環境は猫にとって不利であるようなので、2回目のテストは犬猫ともに自宅に実験者が訪れる形で行われました。飼い主ではなく実験者が訪問してテストを行うのは、全ての犬と猫の条件を可能な限り同等にするためです。
自宅でのテストでは猫の選択意欲は低下しませんでしたが、全体的な成功率はやはり犬よりも低いものでした。研究者はこれらの違いについていくつかの原因が考えられると指摘しています。
犬はもともと社会的な生き物であり、同種同士でも協力し合って生活しています。また家畜化の過程で、人間との交流や協力に積極的な個体が選択されてきた歴史があります。これらの要因は、犬が指差しジェスチャーのテストで好成績をおさめることと強くつながっています。
一方、猫は単独で狩りをする動物なので同種同士であっても協力し合うということはありません。家畜化においても、犬と違って行動に基づいた選択は行われていません。またテスト中の慣れない環境や、いつもと違う扱いに苛立ってストレスを感じていた可能性もあります。
これらのことを考慮すると、猫が人間のコミュニケーションの合図に頼ることが少ないのは当然であると研究者は述べています。
このテスト結果や過去の研究結果から、猫は実験室での社会認知行動のモデルとして理想的ではないと結論づけられています。犬のような行動をする猫も存在し、人間とのコミュニケーションが苦手な犬もいるのですが、「理想的なモデル」とは個々の質ではなく集団レベルでの量を指してのことです。
まとめ
犬と猫を対象にして、実験室と自宅の両方で指差しジェスチャーテストを行なったところ、どちらの場合も犬の成績が上回っていたという結果をご紹介しました。
この結果は「犬の方が優れている」という意味ではなく、犬と猫は元々の暮らし方、家畜化の過程、選択育種の歴史など全てが違うため、行動が違うのは当然であるということです。
この研究は犬と猫の性質の違いに焦点を当てており、動物の知能は普遍的に測定できないことを示しています。それぞれの種のユニークな性質を理解し評価することの重要性がよくわかります。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-023-45008-3