ペットとの暮らしは青少年の幸福感に影響するだろうか?
犬や猫と暮らすことがストレスを軽減したり、精神的な健康を促進するという研究結果は数多く報告されています。しかしそれらの研究の多くは、成人または中高年以上が調査対象になっています。
ティーンエイジ期から成人期初期にかけては、身体的・心理的に大きな変化が起こる時期であり、社会的な変化を多く経験する時期でもあります。
そのため、この時期は精神的な健康問題が最初に現れやすく、その後の人生の精神的な健康に強く関連します。犬や猫などペットの存在は、この年代の人の精神的な健康にも良い影響があるのでしょうか。
麻布大学獣医学部動物応用科学科の研究チームは、「ティーンエイジ期後期から成人期初期の人がペットと暮らすことは家族や地域社会との関わりを増やし、それが個人の性格や幸福感と関連する」という仮説を立て、その仮説を検証するための調査を実施しました。
高校生と大学生を対象にアンケート調査
この研究の調査対象は、オンライン調査会社に登録している高校生と大学生でした。調査は質問票への回答という形で実施され、最終的に分析されたデータは2,845件(男性753名、女性2,092名)でした。
基本情報として年齢・性別・居住地・家族構成・ペットの保有状況などが質問された他、以下のような項目についての評価測定が行われました。
- 文化的疎外感(家族や周囲の環境と自分の価値観がどの程度一致しているか)
- 主観的幸福感(肯定的な感情、熱中できる物事、人間関係、意義、達成感の5つの要素で測定)
- 一般的信頼感(人間性の善意に対する信頼感)
- 家族との関わり合い
- 地域社会との関わり合い
犬や猫との暮らしは必ずしも青少年の幸福感とつながっていない
回答を分析した結果は、少し意外な部分を含んでいました。幸福感については、現在犬を飼っている人と以前に犬を飼っていた人の両方で、飼ったことがない人よりも低いことがわかり、猫を飼っている人では幸福感との関連は見られなかったそうです。
一般的信頼感についても同様で、犬を飼っている人と飼っていた人の両方で、飼ったことがない人よりも低く、文化的疎外感については、ペットを飼っていることとの有意な関連は見られませんでした。
以前に犬を飼っていた人は地域社会との関わり合いが強いことがわかりましたが、年齢が上がるにつれて地域社会との関係は弱くなっていました。子どもの頃に犬を飼っていた人は、犬を通じて地域社会と関わり合う機会が多かったということかもしれません。
家族との関わり合いについては、犬または猫を飼っていることと性別が有意に関連していました。犬または猫を飼っている女性は家族との関わり合いが強く、このことは幸福感の高さとも関連していました。
しかし男性では、犬または猫を飼っていることと家族との関わり合いには有意な関連は見られなかったそうです。
高校生から大学生にかけての時期は、子どもの頃とは違う新しいコミュニティとの関わり合いが増える時期であり、家庭の犬や猫よりも外の世界に気持ちが向かうことで、ペットの効果が一時的に低下する可能性があります。
しかし女性においてはペットの存在が家族との関わり合いを増やし、その結果、幸福度が高いことからこの研究の最初に立てられた仮説は、女性では妥当であるが男性では妥当ではないことが確認されました。
まとめ
日本の高校生と大学生を対象にした調査で、犬や猫を飼っている女性は家族とのつながりが強く幸福度が高い傾向があるが、男性の場合には当てはまらなかったという結果をご紹介しました。
少し意外な気もしますが、10代後半から20代前半という時期は家で犬や猫と過ごすよりも、外の世界に意識が向くと言われれば確かにそうだなという気はします。
研究者は、今後の研究では各年齢層におけるペットの効果を検討すべきであると締めくくっています。
《参考URL》
https://doi.org/10.3389/fvets.2023.1220265