犬にとって価値の高い食べ物は犬のやる気につながる?
犬のトレーニングの際に、犬への報酬として食べ物を使うことは一般的です。また難易度の高いトレーニングなどでは、「犬にとって価値の高い食べ物を使いましょう」と言われることもあります。
報酬となる食べ物の価値によって犬の意欲は変わるのでしょうか?また、何らかの条件が価値の高い食べ物につながることを、犬は理解することができるのでしょうか?
この点についてハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の動物行動学者と、フランスのペットフード会社シムライズ・ペットフード社の研究チームが調査を実施しました。さらに食べ物の嗜好に関連する脳領域についても、MRIを使った調査が行われました。
報酬の価値と、聞こえてくる音に関連があることを犬は理解できるか?
調査のための実験に参加したのは、20頭の家庭犬たちでした。実験に先立って犬たちは、プラスチック容器を包装している紙を解くという課題の訓練を自宅で受けていました。
この課題のプラスチック容器には普段食べているドッグフードが数粒入っており、1枚目の紙で軽く包み、2枚目の紙でさらに包んでテープで留められたものです。3分以内に包装紙を開けて容器に到達するとフードが与えられるという内容です。
次に犬たちは実験室に来て、次の段階である「関連付け訓練」を受けました。容器の中に小さく切ったハム(=価値の高い食べ物)を入れて訓練時と同じように包装して犬に与えるのですが、犬が課題に取り組んでいる時に高いピッチのシグナル音を2秒間隔で流しました。
同じようにして容器の中の食べ物を無糖クッキー(=価値の低い食べ物)に変えて、今度は低いピッチのシグナル音を2秒間隔で流しました。ハムの時の音とクッキーの時の音ははっきりと違うもので、犬も人も容易に聞き分けることができます。
こうして「ハムと高ピッチ音」「クッキーと低ピッチ音」が関連づけられた状態で、実験の本番となります。本番では空の容器を包装して犬に与え、高ピッチ音を流した場合には報酬としてハムを、低ピッチ音を流した時には無糖クッキーが与えられます。
犬たちは2つのグループに分けられ、1つのグループは高ピッチ音(ハム)もう1つは低ピッチ音(クッキー)の条件で、完全に包装紙を取り除くまでの時間が計測されました。
2つのグループの結果は明白でした。価値の高い報酬につながる高ピッチ音を聞いたグループは、価値の低い報酬につながる低ピッチ音のグループよりも有意に短い時間で課題を解決しました。
これらの結果から、犬は聞こえる音と与えられる報酬の価値を関連づける能力があり、高い価値の報酬が期待できる時には問題解決の意欲が高まることが示されました。
高い価値の報酬を予期した時の脳の状態を観察
次に前述の実験とは別の20頭の犬が参加した調査が行われました。この20頭も家庭犬なのですが、MRI装置(医療検査に使われる磁気共鳴画像の装置)の中で、麻酔や拘束を使わずに伏せていられる訓練を受けています。
まず最初に前述の実験と同じ2種類の音を聞かせながら、犬たちの脳のMRI画像をスキャンしました。この時点では、犬たちはこの音について何も条件付けがされていないニュートラルな状態です。
次に前述の実験と同じように、高ピッチ音では価値の高い報酬(ハム)、低ピッチ音では価値の低い報酬(クッキー)が与えられるという条件で、紙で包装された容器の訓練が行われました。
その後、再び2種類の音を聞かせなから脳のMRI画像がスキャンされ、最初のMRI画像と比較。MRIによる脳活動の分析の焦点は、情報処理に関連する脳領域である尾状核の変化を観察することでした。
1回目の条件付けされていない状態と比較して、2回目の音と報酬の価値が関連づけられた状態では、2種類の音の両方で尾状核が強く反応していました。しかし、価値の高い報酬につながる高ピッチ音を聞いた時の尾状核の反応は、低ピッチ音の時よりもさらに強いものでした。
過去の研究では、報酬が有るか無いかの比較で尾状核の反応が観察されたのですが、今回の調査結果から尾状核が単に報酬が有ると反応するだけでなく、その価値に基づいて区別していることが明らかになったそうです。
おもしろいことに、2種類の音で包みを開ける時の速度の差が大きい犬ほど、2種類の音に対する脳の反応の差も大きいこともわかりました。
まとめ
犬は報酬として与えられる食べ物の価値と音などの条件を関連づけて学習することができ、高価値の条件に接すると問題解決の意欲が高まるという実験の結果をご紹介しました。
MRIでの脳スキャンも、高価値の報酬に関連する音を聞くと脳がより強く反応することを示していました。
犬の食べ物の好みが脳内でどのように表現されているのかを知り、犬のやる気にどのような影響を与えるのかを観察できるのはとても興味深いですね。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-023-40539-1