フルオロキノロン系抗菌薬への耐性菌と家庭犬の関連を調査
抗生物質(抗菌薬)は、世界中で感染症治療に広く使われています。中でもフルオロキノロン系抗菌薬は世界保健機構によって最重要抗菌薬に分類され、人間の医療と家畜やコンパニオンアニマルの獣医療において広く使用されています。
しかし、フルオロキノロンが多く使用されるようになったことで、大腸菌のフルオロキノロン耐性率が上昇していることが世界的な問題となっています。
このたびイギリスのブリストル大学の細胞分子医学の研究チームが、家庭犬がフルオロキノロンに耐性を持つ大腸菌をどの程度保有しているのか、犬が排泄するこれらの大腸菌の原因となるものが何であるかを調査し、その結果が発表されました。
生肉食は犬が耐性菌を排泄するリスク因子
調査対象となったのは、農村部から303頭、都市部から297頭の合計600頭の健康な家庭犬です。すべての犬から糞便サンプルが採取され、サンプルに含まれる大腸菌が分析されました。
さらに飼い主にアンケートへの回答を依頼し、愛犬の健康状態、食事の内容、散歩の環境、抗生物質による治療の有無などが詳細に調査されたそうです。
糞便サンプルの分析の結果、農村部の犬の7.3%と都市部の犬の11.8%からフルオロキノロン耐性大腸菌が検出されました。
農村部の犬から検出された耐性菌の大部分はST744というタイプで、これは牛では一般的で人間では稀なものです。一方、都市部の犬からはより広範囲の種類のフルオロキノロン耐性菌が検出されました。
耐性菌が検出された犬についての飼い主の回答を検証したところ、生の肉を犬に与えることが、犬の糞便中にこれらの耐性菌が排泄されることに関する唯一のリスク因子であることが示されました。
この結果は犬に生肉を与えることと、薬剤耐性菌を排泄することの関連を示す過去の研究と一致するものです。
犬に生肉食を与える場合は厳格な管理が必要
この研究の目的は犬の生肉食に焦点を当てることではなく、犬の糞便中に薬剤耐性大腸菌を排泄しやすくする要因を調べることでした。
調査の結果は前述の通り、犬に生肉を与えることとフルオロキノロン耐性大腸菌の排泄の間には、非常に強い関連があることが明らかになりました。
研究者は、生肉は人間用であれ犬の生食用であれ薬剤耐性大腸菌が付着している可能性が高いため、飼い主は犬に給餌する際の入念な手洗いや、衛生管理の徹底を求めています。
また生肉食の犬は、非常に高い確率で薬剤耐性菌を排泄しているので、犬の排泄物の衛生管理は特に厳格に行なう必要があります。つまり少しでも犬のウンチの取り残しがあると、薬剤耐性菌による環境汚染が起きる可能性があるということです。
犬が薬剤耐性菌を排泄するリスクを減らす対策は、「生肉食をやめる」または「抗生物質の使用量が非常に少ない農場で飼育された動物の肉だけを与える」ことだと研究者は述べています。
また、肉を調理して与える場合には犬の生食用の肉ではなく、人間用の調理することが前提の肉を使うようにとのことです。生食用肉には、加熱すると危険な骨などが含まれる可能性があるからだと思われます。
飼い主だけでなく、犬の生食用の肉を販売する業者の責任も問われています。販売前に耐性菌の検査をすることや、生食用の肉には細菌数についてより厳しい規制を設けることが対策案として挙げられています。
まとめ
家庭犬が糞便中に薬剤耐性菌を排泄することと、生肉を与えられていることに強い関連があることが明らかになったというイギリスでの調査結果をご紹介しました。
医療の現場では、人間でも獣医療でも薬剤耐性菌を少なくするために抗生物質の使用を控える努力が行われています。犬に生の肉を与える場合には、愛犬だけでなく飼い主家族、周囲の環境に及ぼす影響をよく知り、徹底した対策を取る必要があることを知らせる研究結果でした。
《参考URL》
https://doi.org/10.1016/j.onehlt.2023.100640