ニンニクと犬の研究の第一人者による歯周病研究
歯周病は犬の健康上の問題として、とても一般的なものです。犬種や年齢にもよりますが、歯周病の罹患率は44〜100%にも上ります。
歯周病を予防するには歯磨きが一番良いことはわかっていても、歯磨きの事前準備としてのトレーニングの失敗や、犬の気質のために実行が難しいこともよくあります。そのため経口薬で歯周病を軽減できる方法を、多くの犬と飼い主さんが必要としています。
先ごろ発表された湧永製薬株式会社と鹿児島大学獣医学部の研究チームによる研究は、犬の歯周病問題を解決する可能性があるもので、熟成ニンニク抽出物による犬の歯肉炎への効果が検証されています。
犬がニンニクやタマネギを食べてはいけないことはよく知られています。ニンニクやネギ類などのアリウム属の植物は溶血性貧血を引き起こすなど、犬の体にとって有毒だからです。
この研究の著者である鹿児島大学の大和教授は、犬におけるタマネギ、ニンニク、ニラ中毒の研究を行ないその原因物質を突き止めた方でもあります。
研究に使用された熟成ニンニク抽出物は、ニンニクをエタノールに10ヶ月以上浸して熟成調整されたもので、熟成によって毒性が減弱または消失しています。
家庭で犬にニンニクを与えても歯周病への効果はなく、犬の健康を害するおそれが高いので絶対にやめてください。
ニンニク抽出物を8週間投与して検証
研究チームは、生のニンニクのスライスをエタノールと水の混合液に10ヶ月浸した後に機械乾燥させることによって、熟成ニンニク抽出物の粉末を作りました。この抽出物が、犬に有害な反応を起こさないことは以前の研究で明らかになっています。
研究対象となったのは実験室で飼育されているビーグルで、軽度の歯肉炎を持っているが、それ以外は健康状態の良い10頭(2〜9歳)です。
10頭は熟成ニンニク抽出物の試験群5頭とプラセボ群5頭に割り振られ、食事に抽出物またはプラセボ粉末を混ぜて8週間与えられました。
犬たちは投与開始前と投与4週後と8週後に口腔内の歯肉指標スコアを測定、さらに投与開始前と8週後に呼気中の揮発性硫黄化合物が測定されました。
揮発性硫黄化合物とは、口の中の細菌が食べカスなどのアミノ酸を分解・腐敗することで産生される、口臭の原因となるものです。
歯肉炎と口臭に有意な改善が見られた!
犬たちの歯肉指標スコアは、熟成ニンニク抽出物を与えられた試験群の5頭では投与後4週と8週で有意に低下していました。一方、プラセボ群では変化がありませんでした。
呼気中の揮発性硫黄化合物は、プラセボ群では8週後に有意に高くなっており、試験群では有意な変化は見られませんでした。
その他の所見と共に総合的に見たところ、研究者は熟成ニンニク抽出物は犬の歯肉炎および口臭に治療効果が期待できると述べています。
しかしこの研究では、対象としたのがビーグルの単一犬種でサンプル数も10頭と小規模であったため、今後は多様な犬種で規模を拡大した研究がさらに必要だとのことです。また、今回は軽度の歯肉炎への効果のみが検証されましたが、今後は重度の歯周病を持つ犬をターゲットとする予定だそうです。
なお、試験群の5頭のビーグルにはニンニクの影響と考えられる健康上の問題は見られず、健康状態は良好でした。
まとめ
歯肉炎を持つ犬に熟成ニンニク抽出物(有毒性は消失している)を8週間与えたところ、歯肉指標スコアが有意に改善していたという研究結果をご紹介しました。
今後さらに研究が進められ、安全性の高い経口薬または栄養補助食品が開発されることが期待されます。
繰り返しになりますが、この研究は犬とニンニクやネギの研究の第一人者によって行われており、熟成ニンニク抽出物は毒性が消失し犬に悪影響がないことが既に示されているものです。くれぐれもご家庭で犬にニンニクを与えることがないよう心にお留置きください。
《参考URL》
https://doi.org/10.3389/fvets.2023.1277272