犬の知能と感情
約40億年前に地球で最初の生命が誕生して以来、生命体は進化を繰り返して現在の姿になりました。その結果、実に多種多様な生物が生まれ、哺乳動物の系列として犬や人類も誕生しました。
同じ系列なので、人と犬は脳の構造や各部位の役割が良く似ています。しかし、人の脳は言語を理解したり論理的な思考をすることに長けた脳に進化しました。そのため人は、本能的な感情よりも、論理的な思考から生じる複雑な感情を抱くようになりました。
逆に犬は、本能に直結した「喜び・怒り・恐怖・安堵」といった感情を抱きやすいものの、嘘をついたり他者を貶めるといった悪意のような思考は苦手なため、自分の行為をごまかしたり罪悪感を感じたりすることはないと考えられています。
3歳児は、罪悪感の芽生えとして後ろめたさを感じるようになります。犬の知能は人の3歳児程度に相当しますが、犬にはこの後ろめたさやそこから生じる気まずさは感じていないのかもしれません。ところが実際には、犬が気まずそうに見えることが多いのではないでしょうか。
そこで回は、犬が「気まずい」と感じた時に見せがちな行動や仕草と、その時の犬の気持ちについて考えてみたいと思います。
犬が「気まずい」と感じた時に見せがちな行動や仕草
では、犬が「気まずい」と感じた時に見せがちな行動や仕草には、具体的にどのような様子が該当するのでしょうか。
1.わざと視線を外す
1万年以上も前から一緒に暮らし始めた人と犬は、通常野生動物の間では行うことのない「見つめる」という行為を、お互いのコミュニケーション手段として手に入れることになりました。
しかし飼い主さんに見つめられ、なぜか犬が目を逸してわざと視線を合わせないようにすることがあります。後ろめたさを感じた時の3歳児の仕草に似ているため、愛犬も自分のしでかした行為に気まずく感じているように見えることでしょう。
愛犬のそのような行動は、帰宅した飼い主さんがなんとなく室内の様子に違和感を感じ、あちこちをキョロキョロと見回していたり、愛犬が荒らした部屋を見て怒ったりしている時に多いのではないでしょうか。
2.背を向ける
犬同士が見つめ合う場合、それは攻撃の合図です。相手に対して「敵意がない」時は、わざと視線を外すのです。前述の、愛犬が気まずいと感じているように見える「視線を外す」という行為も、ここからきている行動だと考えられています。
つまり愛犬は、視線を外すことで飼い主さんに敵意がないことを示し、「だから落ち着いて」と自分が受けているストレスから逃れようとしているわけです。それがうまくいかず、ストレスが軽減されないどころかさらに強くなってしまうと、背を向けることがあります。
飼い主さんが「殊勝な様子を見せても許せない!」と散らかした部屋のことをガミガミと怒り始めた場合、愛犬はさも気まずそうな様子で飼い主さんに背を向けるかもしれません。
3.上目遣いでこちらの様子をうかがう
犬の体高は人よりも低く、また犬は不安などのストレスを受けると姿勢を低くするため、よく上目遣いで飼い主さんの様子をうかがうように覗き込むことがあります。これも、飼い主さんから見ると愛犬が「気まずい」と感じているように思える仕草の一つです。
犬は、飼い主さんをよく観察し、いつもと異なる様子だと不安を感じます。そのため、じっと見つめるのではなく、チラチラと下から覗き込むように上目遣いで飼い主さんの様子をうかがうように見るのです。
4.呼んでも真っ直ぐに来ない
いつもは名前を呼ぶと嬉しそうに一直線に飛んでくる愛犬が、名前を読んでも真っ直ぐに近寄らず、蛇行するようにゆっくりと近づいてくることがあります。その後、気後れしたようにそっと飼い主さんの手を舐めることもあるかもしれません。
これも、飼い主さんから見ると「なにか気まずいことでもあるのかな」と思う行動でしょう。犬の蛇行するような近づき方も、実は相手の気持をなだめようとしている時に見せる行動の一つです。
5.口元を緩めない
リラックスしている時の犬は、少し口元が緩んでいて下側の歯が見えていることが多いです。そのため、しっかりと口を閉じていると神妙な表情に見え、「なにかいたずらでもして気まずいのかな」と思うかもしれません。
犬はなにかに集中していると、口元を引き締めて口を閉じた状態になります。それだけではなく、緊張したり警戒したりしても、口を閉じます。そのため、飼い主さんがイライラしたり怒っている様子を見せたりすると、犬は口を閉じて神妙そうな表情になるかもしれません。
犬の行動は飼い主さんへの反応から出てきます
犬にとって飼い主さんは母親のような存在です。食事も居心地の良い寝床も楽しい遊びも、飼い主さんがいなければ手に入れることができません。もちろん、嫌なことも飼い主さん次第です。
犬にずる賢さや罪悪感があるのかどうかは、今の科学では分かりません。しかし飼い主さんと暮らしている中で、こうすると飼い主さんの機嫌が悪くなる、または機嫌が良くなるなど、さまざまなことを学習し、自分の次の行動の判断基準にしています。
ですから飼い主さんの一挙手一投足が気になり、常に飼い主さんの様子をうかがっています。もしも愛犬が今回ご紹介したような行動を見せた場合、その原因は飼い主さんご自身にあると考えましょう。
飼い主さんの態度が愛犬の不安や警戒心を呼び起こしたり、ストレスになったりしているために、気まずいような様子を見せているのです。
まとめ
今回、犬が「気まずい」と感じているように見える時の行動と、その時の気持ちをご紹介しました。いずれも飼い主さんの態度や様子から、何かしらの不安や警戒、ストレスを感じて見せている行動だということがお分かりいただけたと思います。
逆に言うと、飼い主さんの態度によって、愛犬は簡単に不安や警戒心といったマイナスの感情を抱くということです。
愛犬をいたずらに不安がらせないためにも、飼い主さんは愛犬との間のルールを一貫して守り、常にブレのない対応を心がけてあげてください。