犬って隠し事をするの?
同じ哺乳類に属する人と犬の脳は、良く似ています。しかし決定的な違いもあります。それは、人は言語能力や論理的な思考を担う大脳新皮質が発達しているのに対し、犬は本能や情動といった種の保存に必要な行動を担う大脳古皮質が発達しているということです。
また善悪の区別や行動の判断基準も、人と犬では異なります。そのため、『犬にはいたずらを隠すといったような知恵はない』と考えられています。そもそも、人には問題でも犬にとっては悪意やいたずらのつもりがないため、隠す必要性も感じていない場合がほとんどでしょう。
それでも、飼い主さんが帰宅した時に部屋の中が荒らされていたりすると、愛犬がやけにおとなしくしていて、「いたずらをごまかそうとしているな」とか「隠そうとしているな」と感じることがあるのも事実です。
いたずらをいたずらだと自覚しておらず、隠す必要もないと感じている愛犬が、なぜ帰宅した飼い主さんに対してやけにおとなしくしているのか、「隠しごと」があるように見えるのか、その理由について考えてみたいと思います。
愛犬がやけにおとなしい時に「隠しごと」があるように見える理由
ここからは、冒頭でも述べたように、犬には「隠しごと」をするような知恵はないと考えられているのに、やけに大人しい時にいたずらをごまかしたりしているように見える理由について解説します。
飼い主の様子をうかがっている
愛犬がやけにおとなしい時に「隠しごと」があるように見えるのは、多くの場合犬が飼い主さんの様子をうかがっているから、と考えられます。
犬は、表情や声のトーン、仕草などから、飼い主さんの感情を敏感に察知します。そのため、帰宅して家の中の様子を見た飼い主さんの違和感を感じ、様子をうかがっているのです。
愛犬の心情としては、不安や心配というようなマイナスの感情が多くを占めていることでしょう。そして、飼い主さんが怒り出すのではないかと感じて、下から覗き込むような視線でじっと見つめてしまうのです。
また、忙しくてあまりかまってあげられない日が続いていると、(かまってほしい)と思いながら飼い主さんの様子をうかがったり、いつもより嬉しそうな飼い主さんを見て(何か楽しいことが始まるかも♪)と期待しながら様子をうかがったりもするでしょう。
ストレスを感じている
飼い主さんの感情の起伏が、犬にも伝染することは知られていますよね。明るく前向きな感情のときは良いですが、怒りやストレスを感じている場合は愛犬にもそれが伝わり、犬は暗い気持ちになっておとなしくなってしまう場合があるのです。
もちろん、愛犬が直接ストレスを受けていているケースもあります。一時的なストレスならすぐに解消できるでしょうが、引っ越しや家族が増えたなどの大きな変化が生じた場合は、愛犬へのフォローが必要です。
疲れている
単に愛犬が疲れてしまい、たまたまその時だけ普段よりおとなしかった、という場合もあります。疲れてグッタリしていたため、その様子が「隠しごと」をしているように見えたのかもしれません。
このような場合は、犬をしばらく休ませれば、またいつも通り元気になると思われますので、特に心配する必要はないでしょう。
一時的な体調不良
犬が一時的に体調不良だったために「隠しごと」をしているように見えた、という場合もあります。
例えば、手術を受けたりワクチン接種をした後の数日間などは、手術による体への負荷や傷の痛み、ワクチンの副反応などでいつもより大人しくなることが多いです。
また、台風が近づいて急激に気圧が下がったといったような、気象変化の影響で体調が悪くなることもあります。人が気圧の変化で片頭痛になるのと同じです。特に持病を持っている犬は、気象の変化に影響を受けて症状が悪化する場合があります。
手術やワクチン後なら、安静に過ごしていれば自然に快復するでしょう。また気象の影響なら、気象の回復とともに愛犬の体調も快復するでしょう。ただし、あまりにも症状が悪化したり具合が悪いようなら、早めに動物病院で診てもらうことをおすすめします。
病気やケガ
一時的なものではなく、病気やケガによる体調不良が原因の場合もあります。この場合は、ただおとなしいだけではなく、呼吸が荒い、食欲がない、嘔吐や下痢をする、熱がある、いつもと違う歩き方など、他の症状もあらわれている場合が多いです。
愛犬の様子をよく観察し、いつもとは様子が異なる場合は、できるだけ速やかに動物病院で診てもらうようにしましょう。
愛犬が「隠しごと」をしているように感じた場合の対処法
いつも通りに出迎えに来たものの、いつもよりやけにおとなしく、表情もどこか虚ろで視線を合わせようとしないとか、下の方から上目遣いで覗き込んでくるといったような様子の愛犬を見ると、何か後ろめたさを感じて恐縮しているように感じます。
このような場合、(きっといたずらをして隠しているな)などと思うのではないでしょうか。
しかし、人にとっては問題でも、犬には悪意もいたずらだという意識もありません。普通に遊んでいてはしゃぎすぎてしまったり、溜まったストレスの発散として出た行為だったりするのです。
ただ、過去に同じことをしてしまって飼い主さんからひどく叱られたとか、怒鳴りつけられたなどの経験がある場合、また飼い主さんから叱られたり怒鳴られたりするのではないかと心配になり、飼い主さんの様子をじっと伺うようになることがあります。
このようなトラウマを与えてしまわないように、飼い主さんから見たらいたずらに思えるような行動の形跡を見つけた場合は、叱りつけずに黙々と、そして淡々と後片付けをしてください。
もしも問題となる行動を目の前でした場合は、間髪入れずにその場で一言「ダメ」と大きめの低い声で呼びかけ、その行動を止めてください。長々と叱りつけても、飼い主さんの言葉を理解できないため、無意味に怯えさせるだけなので、気を付けましょう。
まとめ
私たちは愛犬を家族の一員として迎え入れ、その生涯を母親のような気持ちで世話をして過ごします。そのため、つい愛犬の気持ちを私たちと同じような感覚で考えてしまいがちです。
しかし、犬には犬の考え方や感じ方があります。そのことを理解することができれば、もっと愛犬にストレスを与えず、快適に暮らせるようにサポートできることでしょう。