犬の身体認知は行動に影響するのだろうか?
人間や動物が自分の体のサイズを認識して行動を変えるというのは、ごく当たり前のことのように感じてしまいますが、そこには学習や経験、意思決定といった複雑なプロセスが含まれています。
犬の場合、小型犬から超大型犬まで体のサイズにはあまりにも多くのバラエティがあります。大型犬の場合、子犬と時から成犬になった時のサイズの変化も大きいので、自分の体のサイズについての認識は更新していく必要があります。
また彼らの体のサイズは、人間との関わり合いについて大きな意味を持っており、体のサイズによって関係性が変わることもしばしばあります。このように犬は自分の体のサイズによって、さまざまな経験や学習を得ていると考えられます。
ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の動物行動学の研究チームは、犬の身体認知が行動を決定する時にどのように影響するかを調査する実験を行ない、その結果が発表されました、
大きいドアと小さいドアと迂回路で犬の身体認知を実験
実験に参加したのは、同大学の犬研究のためのファミリードッグプロジェクトに登録している家庭犬たちでした。性別や犬種は問わず、1歳以上で体高が50〜65cmの条件に当てはまる68頭が対象となりました。
体高50〜65cmというのは、ボーダーコリー、ウィペット、ラブラドール、スタンダードプードル、ジャーマンシェパードのような犬種が該当します。
実験では向こう側が見えるフェンスが設置され、向こう側にはトリーツの入った皿が置かれます。フェンスには犬が通れない小さいドアと、犬が通れる大きいドアがついていますが、フェンスの端はオープンになっており、迂回すれば向こう側に行くことができます。
犬たちは無作為に3つのグループに分けられました。本実験の前のトライアルとして、大小両方のドアが閉まった状態で迂回だけが唯一のルートである状態で放たれ、迂回による成功体験を学習したそうです。グループ1ではこのトライアルを3回行ない、グループ2と3ではトライアルは1回のみでした。
次にグループごとに、それぞれ違う条件で実験が行われました。
- グループ1 最初に大きいドアを開けて3回、次にドアを閉めて3回
- グループ2 最初に大きいドアを開けて3回、次に小さいドアだけを開けて3回
- グループ3 最初に小さいドアを開けて3回、次に大きいドアだけを開けて3回
犬は自分の体のサイズに合わせて最適解を選んでいる!
グループ1の犬たちは、迂回路の成功体験が他のグループよりも多いので、大きいドアが開いていても迂回する確率が高いのではないかと考えられたのですが、ほとんどの犬たちは最短ルートである大きいドアにまっすぐ進んで行きました。
グループ2と3の犬たちも大きいドアが開いていれば迂回よりもドアを選び、小さいドアしか開いていない場合は、迂回路を選ぶ犬が有意に多いという結果でした。
大きいドアか迂回かで迷う犬はほとんどおらず、大きいドアに近づく速度も小さいドアに近づく時よりも速いこともわかりました。
小さいドアしか開いていない時にはドアを何度も見る行動が観察され、迂回する時の歩く速度はドアが閉まっている時よりも速くなっていました。
またマズルの短い犬種(実験参加犬ではアメリカンストフォードシャーテリアやピットブルテリアなど)は、マズルの長い犬種よりも小さいドアに近づいて行く回数が多く、通れないと判断した時にそばにいる実験者の顔を見るという行動が観察されました。
これはマズルの長い犬種では物理的に視野が広いので、迂回の意思決定への時間が短いためと考えられます。
これらの実験結果は、犬は生活環境における意思決定について、長い試行錯誤をすることなく身体認知に基づいて行動を選択することを示しています。
まとめ
犬とトリーツの間にある障害物を解決するという課題で、通れるドア、通れないドア、迂回という選択肢を示した時に、犬は自分の体のサイズに合った最適解を選ぶことができたという実験結果をご紹介しました。
普段、愛犬の行動だけを見ていると当たり前のように感じることも、こうして数多くの犬で条件を揃えて実験することで、彼らの認識や柔軟な対応が伺えるのは興味深いことですね。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-023-45241-w