増えすぎてしまったブータンの集落犬
2023年10月、ブータン王国は路上で暮らす犬たちの不妊化手術と、ワクチン接種を100%達成した世界初の国となったという報道がありました。この歴史的なニュースのお話をする前に、ブータン王国の犬事情についてご紹介していきます。
ブータンは「野良犬」の多い国として知られていますが、この国の路上で暮らしている犬たちは、日本や欧米の感覚の野良犬とはかなり違っています。
国民のほとんどが敬虔な仏教徒である彼の国では、命あるものは皆心をかけられなくてはならないという仏教の教えに基づいて、通りをうろつく犬たちも心をかけられ世話をされています。
飼い主のいない犬もコミュニティの一員であると認識されているので、野良犬と言うよりも集落犬と呼ぶ方が相応しいでしょう。
しかし2000年代中頃には犬の数が増えすぎて、彼らの吠え声は観光客の眠りを妨げ、苦情も多く寄せられるようになってしまいました。ブータン王国にとって観光は重要な産業ですから、これは大きな問題でした。
ブータン政府は犬の保護施設を建設し、集落犬を施設で飼育する計画を立てたのですが、集落の犬が減った所ではネズミの数が増えすぎるという事態を引き起こし、対策は振り出しに戻ってしまいました。
2009年『人道的な犬管理プログラム』がスタート
そこでブータン政府は、かねてから相談していたHumane Society International(HSI=国際動物保護協会)と共に『人道的な犬管理プログラム』を2009年にスタートさせました。
ブータン政府によって招聘されたHSIの獣医師やスタッフは、まず最初に首都ティンプーで犬の不妊化手術とワクチン接種プログラムを試験的に開始しました。
犬を傷つけないよう捕獲ネットで捕まえ、傷口を最小限に止める方法で手術を行ない、ワクチン接種と手術済みの目印として、耳にカットを入れて路上に戻すという方法です。
ティンプーでの取り組みは後に全国的に拡大され、『全国犬個体数管理および狂犬病対策プロジェクト』が正式に発足されました。
HSIはブータンの獣医師とスタッフを対象に、スピーディで質の高い不妊化手術の技術のトレーニングも行いました。また一般の人々への犬に関する教育活動、プログラムへの地域社会の参加についてもHSIがサポートしました。
犬の捕獲や地域社会とコミュニケーションには、何千人もの地元ボランティアが活躍したといいます。まさに国家ぐるみのプロジェクトだったようですね。
15万頭以上の犬たちに不妊化手術とワクチン接種
2023年、全集落犬の不妊化手術とワクチン接種の完了を機に、ブータン政府は『全国犬個体数管理、および狂犬病対策プロジェクト』の終了を宣言しました。
2009年のプログラム開始以来、15万頭以上の集落犬の不妊化手術とワクチン接種、32,000頭以上のペット犬へのマイクロチップ装着が実施されたといいます。
不妊化手術100%達成とは言え、この数字は何らかの統計上の定義に基づくものでしょうから、実際には今後も生まれてくる集落犬はいることでしょう。
しかし人々は路上で暮らす犬たちとの付き合い方を心得ており、不妊化手術とワクチン接種のノウハウも確立されている現在では、大きな問題になることはないと考えられます。
このプログラムに取り組んできたHSIのディレクターは、「世界の他の地域でも人と犬が平和に共存するためのブータンの取り組みから学ぶべきことが多い」と述べています。
まとめ
ブータン王国が2009年から取り組んで来た『全国犬個体数管理および狂犬病対策プロジェクト』により、集落犬の不妊化手術とワクチン接種を100%達成したというニュースをご紹介しました。
私たちは動物福祉というと欧米諸国に目を向けがちですが、宗教的な共通点もあるアジアの国の動物福祉には学ぶべき点が多いと感じます。政府の取り組みもぜひ取り入れて欲しいところですね。
《参考URL》
https://worldanimalnews.com/the-kingdom-of-bhutan-becomes-first-country-in-the-world-to-achieve-100-stray-dog-sterilization-vaccination/
https://www.hsi.org/news-resources/street_dogs_bhutan/