集落犬とペット犬が人間の表情を読み取る能力を検証した研究結果

集落犬とペット犬が人間の表情を読み取る能力を検証した研究結果

人間の住む地域で自由に暮らしている集落犬と、飼育されているペット犬では人間の表情を読み取る能力に違いがあるのでしょうか。興味深い検証結果をご紹介します。

お気に入り登録

集落犬が人間の表情を理解する能力を調査

頭を撫でられている犬

犬の認知についての研究は数多く行われていますが、そのほとんどは人間と暮らしているペットの犬が対象になっています。しかし、世界全体で見れば人間に飼われている犬は少数派であり、その大部分は放し飼いや飼い主のいない犬たちです。

人間が暮らす場所の近くで放し飼いにされていたり、決まった飼い主はいないが人間から食べ物をもらっている犬は、ビレッジドッグや集落犬と呼ばれます。

これら集落犬は、人間との共存によって生き延びているという家畜化の選択的な力に直面して暮らしています。そのため、家畜化の過程が犬の行動や認知に与えた影響を調査する上で、貴重な研究対象でもあります。

集落犬にとっては、人間との社会的接触が生活の重要な部分を占めているため、彼らは人間のコミュニケーション方法を理解しているように見えます。

人間とのコミュニケーションという点から、オーストリアのウィーン獣医科大学、ウィーン大学、クレムス継続教育大学の研究チームは、集落犬たちが人間の表情をどのくらい理解しているのかについて調査を行ない、先頃その結果が発表されました。

モロッコの集落犬とウィーンのペット犬で同じ実験を実施

モロッコのビーチで寝ている犬

実験の対象となった集落犬は、モロッコのタガゾートという人口約5,000人の観光地の犬たちです。モロッコには約200万頭の犬が生息しており、そのほとんどが自由に行き来する放し飼い犬や集落犬たちです。

タガゾードは犬に対して寛容で好意的あることで知られており、犬たちはゴミを漁る他に地元の人や観光客から食べ物をもらったり、特定の場所で定期的に給餌されたりして暮らしています。

研究者は村の中を車で移動しながら単独でいる適切な犬を見つけると、1人が犬の注意を惹きつけ、その間に別の1人が椅子とビデオカメラを設置するという手順で実験を開始しました。

実験者は椅子に座ってソーセージとクラッカーを取り出します。最初に犬の注意を惹きつけた人が犬を実験者の側まで連れてきて、犬が実験者に集中したところでゆっくりと食べ物を食べ始めます。

次に犬を見つめて視線を合わせたら、約5秒間「笑顔(嬉しい)」「しかめ面(怒り)」「無表情(中立)」のうちのどれかの表情を見せ、その後また食べることに戻りました。

これを3回繰り返した後、実験者は食べ物を落とします。落とした後に先と同じ表情を3回(1回5秒)繰り返し、この表情を作る動作は犬が食べ物に近づいたかどうかに関係なく行われました。

その後、実験者は立ち上がって犬から1〜2メートル離れて犬に背を向け、実験はここで終了です。

ペットの犬はウィーン市内の公園で犬を連れている人に声をかけて、犬と一緒に実験に参加したいかどうかを尋ねて募集した63頭と、ウィーン獣医科大学のイヌ研究のデータベース登録者からの53頭の計116頭が参加しました。

実験の内容は集落犬の場合と全く同じで、公園でスカウトした犬たちは公園内、データベース登録の犬たちは自宅庭で実験を行ないました。

集落犬はペット犬と同じように人間の表情を理解している

ウィーンの公園を散歩する犬

実験中の集落犬とペット犬たちの実験者の表情に対する反応を比較分析したところ、以下のように両者ともに同じような行動をとったことがわかりました。

  • 実験者が怒った表情の時には笑顔の時よりも視線回避の回数が多かった
  • 実験者が怒った表情の時には無表情の時よりも視線回避の回数が多かった

視線回避は「自分には敵意はない」という意思を示す反応であり、最近の研究では犬の視線回避は緊張によって誘発される転位行動(どうすれば良いか葛藤している時に出る関係のない行動)であるという証拠も報告されています。

これらのことから、集落犬もペット犬も同じように人間の表情を読み取る能力が高いことが明らかになったそうです。

しかし実験前の予想に反して、視線回避以外では実験者の表情の違いによる犬の行動の違いは確認されませんでした。

実験者の近くに留まっている時間の長さ、地面に落ちた食べ物を全部食べる確率、尻尾を振る時間の長さについて、表情の違いによる差はありませんでした。

この実験では犬とのコミュニケーションは顔の表情のみで行われ、一切の発声やボディランゲージは使われませんでした。犬は人間の発声や仕草からも情報を得ているため、怒った顔の表情だけでは視線回避以外の反応を変えるには弱かった可能性があります。

一方で、集落犬とペット犬では行動に有意な違いが見られました。落ちた食べ物を食べる確率は、公園で実験したペット犬の94%、自宅庭で実験したペット犬の87%がすぐに完食したのに比べ、集落犬では食べ物を食べたのは41%にとどまりました。

集落犬は実験者のそばに留まる時間がペット犬より短かかったこと、尻尾を振っている時間も集落犬の方が長かったこと(この尻尾振りは興奮ではなく、敵意はないことを示すもの)も、集落犬は見知らぬ人間の側では慎重になっていたことが伺えます。

まとめ

モロッコの街を歩いている犬

集落犬とペット犬を対象にした実験で人間の表情を読み取る能力を検証したところ、集落犬とペット犬はどちらも怒った顔に対して視線回避をしたことから、両者ともに人間の表情を識別できるという調査結果をご紹介しました。

またペットの犬は犬種や過去のトレーニング歴、生活経験によって行動が大きく影響を受けている可能性があります。そのため、人間社会の側で暮らしている集落犬の方が、家畜化が犬の行動や認知に及ぼした影響を調べるのに適していることもこの調査結果は示しています。

《参考URL》
https://doi.org/10.7717/peerj.15601

はてな
Pocket
この記事を読んだあなたにおすすめ
合わせて読みたい

あなたが知っている情報をぜひ教えてください!

※他の飼い主さんの参考になるよう、この記事のテーマに沿った書き込みをお願いいたします。

年齢を選択
性別を選択
写真を付ける
書き込みに関する注意点
この書き込み機能は「他の犬の飼い主さんの為にもなる情報や体験談等をみんなで共有し、犬と人の生活をより豊かにしていく」ために作られた機能です。従って、下記の内容にあたる悪質と捉えられる文章を投稿した際は、投稿の削除や該当する箇所の削除、又はブロック処理をさせていただきます。予めご了承の上、節度ある書き込みをお願い致します。

・過度と捉えられる批判的な書き込み
・誹謗中傷にあたる過度な書き込み
・ライター個人を誹謗中傷するような書き込み
・荒らし行為
・宣伝行為
・その他悪質と捉えられる全ての行為

※android版アプリは画像の投稿に対応しておりません。