飼い主の気質が犬の社会行動や認知行動に及ぼす影響を調査
人間と暮らす犬は、生涯のほとんどを飼い主と一緒に過ごします。そのため、飼い主の性格や両者の関係性は犬にさまざまな影響を及ぼします。
過去の研究では、飼い主の性格と犬のストレスレベルとの関連、飼い主の性格と犬の恐怖や不安レベルとの関連などが報告されています。他にもさまざまな研究が発表されているのですが、その多くは犬のネガティブな行動に関するものが占めていました。
犬の行動のうち問題になるものではない社会行動や認知行動が、飼い主の気質の影響を受けているかどうかを調査した研究は今まで報告されていません。
この点について、フィンランドのユヴァスキュラ大学とヘルシンキ大学の研究チームが、飼い主へのアンケート調査と犬の行動テストから分析した結果を発表しました。
犬の行動テストの結果と飼い主の気質評価の結果を比較
犬の社会的行動と認知行動を測定するための犬の行動テストのデータは、2022年にヘルシンキ大学が他の研究のために実施したテスト結果から収集されました。
今回の研究ではテストを受けた犬の飼い主にコンタクトを取り、飼い主自身の気質を心理学的に判定するためのアンケートと、犬との関係性を評価するためのアンケートに回答してもらったそうです。
データ収集に使われた犬の行動テストは3種類で、以下のような内容でした。
1.トリーツ入りボウル選択テスト
このテストは犬が人間の非言語ジェスチャーを利用する能力を測定するものです。
実験者が自身から1メートルずつ離れた両脇にボウルを置き、準備段階で犬の目の前でどちらかにトリーツを入れます。次にテスト段階では、犬から見えないところでどちらかのボウルにトリーツを入れ、5パターンの方法でトリーツの入った方を犬に示します。
最初のパターンは、犬がボウルを選択するまでトリーツ入りボウルを指差し続ける。2つめは2秒間だけトリーツ入りボウルを指差し。3つ目は指の代わりに足でボウルを示す。4つめはトリーツ入りボウルが置いてあるのとは反対側の手で指差し。5つめは手足を使わず犬とボウルと交互にみつめるだけ。各パターンの成功率が計測されます。
2.シリンダーテスト
このテストは、トリーツを手に入れるために犬が自分の行動を制御する能力を測定するものです。
両端が開いたシリンダー(円筒)を犬の前に横向きに置き、両方の開口部にはトリーツが置かれ、犬はトリーツの位置とそれを取ってもよいことを学習します。
学習が済んだら同じサイズで透明のシリンダーが置かれ、最初と同じようにトリーツを取り出せるかどうかが観察されます。最初と違って透明なので、開口部まで回り込まずにシリンダーの外側に触れてしまうと減点となります。
3.解けない課題テスト
このテストは犬が問題を解決するための戦略が、人間依頼タイプか独立タイプかを判定するものです。
犬にトリーツの入った容器を渡し、中のトリーツを取り出すという課題ですが、準備段階では容器の蓋を完全に閉めずに犬が自力で開けられるようにしておきます。次のテスト段階では蓋を完全に閉めて渡します。
この時、犬が自力で容器を開けようとトライした時間の割合、犬が実験者や飼い主を見て容器との間で視線を動かした時間の割合、トライでも人間を見るのでもなく他のことをした時間の割合(立ち去るなど)を計測します。
また、これら3種のテストの1時間半の間、首輪に活動量計が装着されそれぞれの犬の活動レベルも測定されました。
飼い主の気質と犬の行動の関連には犬種による違いもあった
飼い主が回答した2種のアンケート調査の結果は、飼い主の気質はその人と犬との関係性に影響を及ぼすことを示していました。
否定的な感情が強い人は、犬への感情的親近感と犬に関する負担感が高く、努力による感情制御が高い人は、犬への感情的親近感と犬に関する負担感が低いという関連性が示されたとのことです。また外交性の高い人は、犬に関する負担感のスコアが低いこともわかりました。
犬の3種の行動テストの結果は、解けない課題テストで人間に依頼する行動を示した犬は、ボウル選択テストでもシリンダーテストでもより良い成績を示したといいます。
「飼い主の気質」と「犬の行動テストの結果」は一部関連が見られる点もありましたが、「飼い主と犬の関係性」は「犬の行動テストの結果」との関連は見られませんでした。
一方で、犬の活動レベルは犬と人の関係性に関連していました。犬の活動レベルが高いほど犬と飼い主の感情的親近感が低く、犬と飼い主の相互作用も低いという結果を示したのです。
さらに活動レベルの高い犬は、解けない課題テストで自力で解決しようとする時間の割合が多く、人間に視線をやる時間が短かったこともわかりました。
しかし、飼い主の気質と犬の行動テストの結果を犬種別に見ると興味深い関連が示されていました。
具体的には、牧畜犬種では飼い主の否定的感情ば強い場合に指差しによるボウル選択テストのスコアが低いという関連が強く見られ、古代犬種(この研究ではフィニッシュラップフンドなど)では関連が見られなかったということです。
まとめ
犬の飼い主の気質、犬と飼い主の関係性と行動テストで測定される犬の社会的および認知行動との関連を調査分析したところ、飼い主の気質は犬との関係性および犬の社会的/認知行動と中程度の強さで関連していたのに対して、飼い主と犬の関係性と犬の行動は関連していなかったという結果が出たことをご紹介しました。
また飼い主の気質が犬の行動に及ぼす影響は犬種群によって違うこと、活動レベルの高い犬は自力で問題解決をする傾向があり飼い主との感情的な親密度が低いこともわかりました。
このような研究結果は、犬と人間双方の幸せな組み合わせを考える際に活用できる可能性があります。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-023-41849-0