咀嚼が犬の記憶に与える影響を調査
私たち人間が食事をする時に「よく噛んで食べること」が健康に良いというのは、一般的に知られています。消化の問題だけでなく、噛むことが認知機能の低下を防ぐという研究結果も数多く発表されています。
犬の場合、フードは噛まずに飲み込んでしまう犬も少なくありませんが、犬用ガム、アキレス、噛むおもちゃなど犬に噛む機会を与える製品がたくさん有り、噛むことは犬のストレス解消になると製品の説明書に書かれている場合もあります。
しかし噛むことが、犬の認知機能に何らかの影響を与えるかどうかを検討した研究は今までのところなかったそうです。
アメリカのオーバーン大学獣医学部の研究チームは、犬の記憶に対する咀嚼の影響を明らかにするための実験を行ない、その結果が発表されました。
短期記憶と長期記憶を評価するための2種類の実験
この実験に参加したのは34頭のラブラドールレトリーバーでした。この犬たちは探知犬になるべく繁殖/訓練されており、定期的に臭気探知訓練に従事しています。
過去の研究で噛むおもちゃなどのエンリッチメントは、恐怖心のレベルが高い犬に福祉向上の効果が高いことを示す証拠がいくつかあるため、犬たちの恐怖心のレベルもあらかじめ評価されました。
恐怖心の評価は、少なくとも1ヵ月間この犬たちと仕事をしたことのあるドッグトレーナーによる「犬の行動評価質問票(C-BARQ)」への回答から得られました。質問票への回答は実験に先立って行われています。
1つめの実験は、複数並べられたバケツのうち、どのバケツにトリーツが入っているかを短期的に記憶する(空間ワーキングメモリー課題)というものです。
課題の前に噛むおもちゃを5分間与える条件と、噛むおもちゃを与えない条件で課題にあたり、それぞれの犬の空間ワーキングメモリーが評価されました。犬がおもちゃを噛んでいる様子はビデオ撮影され、噛んだ回数や噛む強さも記録されました。
2つめの実験は、迷路を使って長期記憶を測定するもので、犬たちは最初に迷路を学習し、次に噛むおもちゃを与えられます。この時も噛んだ回数や噛む強さが記録されています。おもちゃを噛んだ直後と、1週間後に同じ迷路で記憶の測定が行われました。
恐怖心の強さによって短期記憶向上に違いがあった
1つめの実験の結果は、犬の恐怖心の強さによって有意な違いを示し、恐怖心が強いと評価された犬では、おもちゃを与えられた時に噛む回数が多い犬ほど空間ワーキングメモリーが向上していました。
逆に恐怖心が弱いと評価された犬では、噛む回数が多いほどワーキングメモリーが低下していました。
不安や恐怖を感じている犬にとっては、何かを噛むことは集中力を高め興奮を抑えるのに役立つが、不安を感じていない犬は噛むことが気分転換になり、集中力が削がれたせいではないかと研究者は述べています。
しかし2つめの迷路実験については、恐怖心の評価に関係なく咀嚼の強度が高い犬ほど1週間後の迷路再学習が早いことがわかりました。つまり長期記憶に関しては、噛むことは恐怖心の強い犬にもそうでない犬にも有効であるということです。
まとめ
噛むおもちゃを使った2種類の実験から、咀嚼は犬の記憶力に良い影響を与える可能性があること、この関連は恐怖心の強い犬で顕著になる可能性があるという研究結果をご紹介しました。
この結果は、噛むおもちゃだけでなく犬のエンリッチメントは、それぞれの犬への向き不向きへの考慮が重要であることも示しています。
また、噛むことは確かに犬にとってメリットがあるようですが、硬すぎるもの(骨、鹿の角、牛のヒヅメなど)は犬の歯が欠けたり割れたりするリスクが高いため避けてください。
《参考URL》
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0168159123002502
https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-12612413/Anxious-dogs-improve-memory-chewing-toys-study-suggests.html