犬の下痢治療、抗生物質とサプリメントの有効性を調査
犬の急性の下痢はとても一般的な病気です。動物病院で下痢の診察を受けた場合、抗生物質が処方されることもまた一般的です。抗生物質は抗菌薬とも呼ばれることからわかるように、細菌による感染症に有効です。
しかし、細菌感染や敗血症などの合併症がない下痢にも抗生物質が処方される例は多く、細菌性の原因が確認されなくても、抗生物質は犬の下痢に長年使用されて来ました。
これまで合併症のない下痢の治療に抗生物質が有効かどうかを調査した研究は非常に少なく、抗生物質の必要性の有無を明確にするエビデンスがない状態でした。
この件について、このたびイギリスの王立獣医科大学の研究チームが、下痢の治療に用いられる抗生物質と胃腸用サプリメントの有効性の調査を行ない、その結果が発表されました。
犬の診療記録データベースから取った無作為サンプルを分析
王立獣医科大学は、イギリス国内で獣医療を受けた動物のデータを集計するVetCompassというプログラムを運営しています。このプログラムに参加しているイギリス全国の1,800以上の動物病院、全ての臨床記録が匿名化されたデータベースとなっているものです。
この度の研究もVetCompassのデータを利用して行われました。対象となったのは、2019年1月1日から12月31日の間に合併症のない急性下痢と診断された3ヶ月齢〜10歳の犬の診療記録で、これらの中から無作為に選ばれた894頭のデータが分析されました。
無作為サンプル894頭のうち、355頭(39.7%)が抗生物質を処方され、539頭(60.3%)は抗生物質が処方されていませんでした。
これら2つのグループの犬の年齢、犬種、体重、持病の有無、嘔吐、食欲低下、血便、体温などについては、グループ間での分布の違いはほとんどなかったことがわかっています。
抗生物質もサプリメントも有意な違いを示さなかった
データの分析の結果、抗生物質を処方された犬の下痢が治癒した割合は88.3%であったのに対し、抗生物質を処方されなかった犬の場合は87.9%でした。
ほぼ10頭中9頭が抗生物質投与の有無に関係なく、1回の受診で回復していました。治癒や回復の定義は、初診時から30日以内に下痢での再診がないことです。
2つのグループ間の0.4%の違いは統計学的に有意ではなく、合併症のない下痢の治療には、抗生物質の投与は有益な効果をもたらさないという結論に達しました。
もう1つ、消化器系栄養補助食品を処方された597頭と、処方されなかった297頭についてもデータが分析されたといいます。
ここで言う栄養補助食品とは、食品と医薬品の中間的位置付けで、健康回復を目的とした製品(消化器系の場合はプロバイオティクスやプレバイオティクスなど)を指します。こちらも2つのグループ間で統計学的に有意な違いは認められませんでした。
この結果について研究者は犬の合併症のない下痢に対して、抗生物質の投与を制限するよう獣医師に推奨するための重要なエビデンスになると述べています。飼い主は「抗生物質はどうしても必要な場合にのみ処方されるもの」と認識することが必要です。
まとめ
イギリスで獣医臨床データに基づいた調査から、合併症のない犬の急性下痢には抗生物質もプロバイオティクスなどの栄養補助食品も、投与してもしなくても臨床的な解決に大きな違いがなかったという結果をご紹介しました。
抗生物質の不要な処方を減らし適切に使用することは、薬剤耐性菌の増加を防ぐためにも非常に重要です。この研究結果が日本も含めた多くの国のガイドラインに採用されることを願います。
《参考URL》
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0291057