バセットハウンドにフェイスリフト?
先日、「あるバセットハウンドが“フェイスリフトの整形手術”を受けた」という見出しがニュースサイトや犬関連サイトで報道されました。
フェイスリフトと言えば、顔のたるみを取り除きシワをなくすための美容整形手術としてよく知られています。犬にそんな手術をするの?という疑問を持たせるキャッチーな見出しともいえます。
しかし、報道されたバセットハウンドが受けた手術は当然ながら美容整形ではなく、治療のためのものでした。バセットハウンドの名はチーフ、3歳でアイルランドのダブリンに住んでいます。
大掛かりな手術で視界を取り戻した犬のチーフ
チーフが手術による治療を受けたのは、彼が重度の眼瞼下垂(がんけんかすい)と眼瞼外反(がんけんがいはん)に悩まされていたからでした。
眼瞼下垂は、上まぶたが下がってきて視界を遮ってしまう状態を指します。単に見えにくくなるだけでなく、まぶたやまつ毛が眼球を刺激して炎症を起こしてしまうこともあります。
眼瞼外反は、下まぶたが通常の位置よりも外側に反っている状態を指します。まぶたが外側に反ってしまうことで常にアッカンベーをしたような状態になり、角膜や結膜、下まぶたに炎症が起きてしまいます。
チーフの飼い主さんは、彼が子犬の頃から目がかなり垂れ下がっていることに気づいていたそうですが、成長するにつれて視界の悪さ、目の痛みや乾燥が酷くなっていきました。
チーフの飼い主さんは獣医師と相談して、手術を受けることを決めました。手術は上まぶたを持ち上げ、下まぶたを外側に引っ張るたるみを取り除くために、耳に近い頚背部(けいはいぶ)から首の皮膚を切除するというものでした。
5時間に及ぶ手術によって約1kgの皮膚が取り除かれ、チーフは目の痛みと視界の遮りから解放されました。飼い主さんはチーフの生活の質が飛躍的に向上したことを報告しています。
見た目のための極端なブリーディングに苦しむ犬たち
チーフの例は、ドキッとする見出しでニッコリする結末のニュースとして報じられましたが、ここには根の深い問題が含まれています。
バセットハウンドは目の周りの皮膚が垂れているため、チーフのように目の病気が多い犬種です。犬種スタンダードであるたるんだ皮膚のために皮膚疾患も起きやすいです。脚の短さもスタンダードで、おなかが地面に付きそうな犬も少なくありません。
しかし約100年前のバセットハウンドの姿には、皮膚のたるみも垂れ下がった下まぶたも見られません。脚も現代の姿よりも長く、お腹と地面の間には十分なスペースがあります。
見た目のユニークさを求めるための極端なブリーディングのせいで、犬の健康に支障を来たすことが問題になってから長い時間が経っていますが、今もチーフのような例は後を絶ちません。犬が苦しい思いをするだけでなく、飼い主さんの心理的および経済的な負担も重い問題です。
短頭種の犬の呼吸障害などはよく知られるようになって来ましたが、まだまだ「犬種特有の病気や体質で仕方のないこと」と捉えられていることが少なくありません。
特定の犬種に多い病気や障害がある裏側には、人間の都合だけを優先した繁殖がしばしば存在しています。このような問題を改善するため取り組んでいるブリーダーもいますが、解決への道はまだ遠い状態です。
犬種特有の病気は決して「仕方のないこと」ではないと知る飼い主さんが増えることも、このような問題を解決するためにとても重要です。
まとめ
整形手術を受けたと報じられたバセットハウンドの例から、ブリーディングによって極端な姿形を持つようになった犬が病気や障害に苦しんでいることを考えてみました。
バセットハウンドは日本ではあまりたくさん見かける犬種ではありませんが、マズルがほとんどない短頭種の犬、見た目の可愛らしさのために本来よりも短いマズルにする繁殖が行われるチワワやポメラニアン、本来の姿よりも小さい姿を作るために繁殖される豆柴なども問題の根っこは同じです。
苦しむ犬を無くしていくためには、消費者が知識を持つこともとても重要です。