健康問題とのパラドックスにも関わらず人気を集める短頭種の犬たち
マズルが短く平らな顔の短頭種の犬の人気は相変わらず続いています。多くの獣医学の研究者が短頭種の深刻な健康や寿命の問題を発表していますが、世界各地で短頭種の人気が衰えることはなく、「平らな顔の犬のパラドックス現象」とも言われています。
近年は短頭種そのものの研究に加えて、短頭種の犬を選ぶ人々の心理や動機を調査する研究が増えています。
このような流れの中で、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学と自然科学研究センター認知神経科学研究所の倫理学、自然科学、心理学の研究者チームが犬を対象にして行なったテストから、なぜ人々が短頭種の犬に惹かれるのかを調査分析した結果を発表しました。
2種の短頭種と1種の中頭種の犬を行動テストで比較
この調査では短頭種の犬と中頭種の犬の問題解決能力をテストし、その結果から短頭種の人気を分析する方法が取られました。
テストに参加したのは43頭の家庭犬たちで、それぞれの犬種のイベントで研究ボランティアに参加しないかとスカウトされた犬たちです。
犬種はイングリッシュブルドッグ15頭(オス10頭、メス5頭、0.75歳〜9.92歳、平均年齢3.71歳)、フレンチブルドッグ15頭(オス5頭、メス10頭、0.67歳〜7.00歳、平均年齢2.34歳)、ハンガリアンムーディ13頭(オス7頭、メス6頭、1.5歳〜11.0歳、平均年齢4.29歳)です。
ハンガリアンムーディはハンガリー原産の中型牧畜犬です。(上記画像がムーディです。)
3犬種43頭の犬たちは、市販のドッグパズルを使って行動テストを受けました。テストに使われたパズルは3つの木製の箱が並んだもので、それぞれの箱は開け方の難易度が異なります。
テストに使われたパズルはこちらです。
https://caniscallidus.com/products/games4brain-set-1
実験者はパズルを間にはさんで犬の前に立ち、3つの箱の1つにソーセージの欠片を入れます。犬はその様子を見ており、ソーセージを取るようキューが出されます。1つの箱にかける時間は3分間で、テストの間、飼い主は犬の後ろに立っています。
難易度の異なる3つの箱それぞれにソーセージが入れられ、1頭につき3回のテストが行われました。一連のテストの様子はビデオ録画され分析に使用されました。
短頭種と中頭種では問題解決のための戦略に違いがあった
犬が箱の中のソーセージにありつける成功率は、当然ながら箱の難易度によって異なりました。それとは別に、犬種によって成功率は有意に違っていたそうです。
フレンチブルドッグとイングリッシュブルドッグに比べて、ムーディは約2倍の確率で箱を開けることに成功し、また箱を開けるまでの時間も短頭の2犬種はムーディよりも長くかかりました。
研究者はテストの前に短頭種と中頭種では鼻(嗅覚)の使い方に違いがあり、それがテスト結果に影響するだろうと予想していたのですが、結果は予想に反して鼻の使い方には犬種による違いはほとんど見られませんでした。
短頭2犬種とムーディで違っていたのは前足の使い方でした。フレンチブルドッグとイングリッシュブルドッグは、ムーディに比べてあまり前足を使っていませんでした。
前足を使わない理由はこの実験では推測するしかないのですが、足の先端部分の丸さ、頭の形や重さから体重が前肢に集中していることによって、バランスを崩さずに前足を使うことが難しいからではないかと研究者は述べています。
もうひとつ、短頭2犬種とムーディのはっきりとした違いがありました。それはフレンチブルドッグとイングリッシュブルドッグは、箱が開けられない時に飼い主を振り返って助けを求めるように見る回数がムーディの4.5倍も多かったことです。
助けを求めるような表情と行動は人間の庇護欲をかき立て、より可愛らしく感じることが短頭種の犬の人気につながっている可能性が指摘されました。
過去の別の研究では、健康状態の悪い犬や弱々しい犬に対して「自分が必要とされている」と感じる人も少なくないこともわかっており、短頭種の犬が「問題を解決するために人間の助けを求める」という行動が同じような気持ちを起こさせる可能性があります。
まとめ
ドッグパズルを使った行動テストを行なったところ、短頭種のフレンチブルドッグとイングリッシュブルドッグは自力での問題解決能力が低く、代わりに人間を見つめて助けを求めるという戦略を取ったという結果をご紹介しました。
大きな丸い目で人間の助けを求める犬の行動は人間の本能的な部分に訴えかけるため、これを認知的に上書きすることは非常に難しいと研究者は述べています。頭では犬の健康や福祉の問題があるとわかっていても目の前の可愛らしさのために短頭種を選んでしまうということです。
短頭種の健康と福祉の問題を解決することの難しさを改めて感じさせられる結果です。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-023-41229-8