米国獣医行動学者協会が発表した犬のトレーニング方法についての見解

米国獣医行動学者協会が発表した犬のトレーニング方法についての見解

SNSで話題となったトレーナーの手法についてアメリカの獣医行動学者協会が正式な見解を発表し話題を呼んでいます。全ての飼い主が知っておきたい見解の内容についてご紹介します。

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炎上した犬のトレーニング方法について獣医行動学者協会が声明

リードを引っ張るベルジアンマリノア

今夏、アメリカで活動しているドッグトレーナーがソーシャルメディアにあげたトレーニング動画が、その手法に対する批判で炎上するという騒ぎがありました。

この動画は犬のリードを強く引いてショックを与える嫌悪刺激の方法を撮影したもので、多くの人が「容認できない」として抗議のコメントが殺到しました。

そして先日、このトレーナーの手法について米国獣医行動学者協会(American College of Veterinary Behaviorists:ACVB)が、正式な見解を発表し話題になっています。

米国獣医行動学者協会は、米国獣医師会が認定する獣医学専門組織です。協会のメンバーは、研究や科学的根拠に基づいた動物行動の教育と臨床行動医学の実践を通じて、動物の行動上の健康を増進するための専門的訓練を受けた獣医師です。

協会が指摘する問題手法のリスク

プロングカラーを着けられた犬

獣医行動学者協会は、問題視された動画で紹介されていた以下の手法について、「非人道的で犬の心身両方に有害である」とし、同時にハンドラー自身も危険に晒していることを指摘しています。

  • 引っ張ると締まるタイプのスリップリードで犬を吊り上げる
  • プロングカラー(鉤爪のついた首輪)の使用
  • 強制的に伏せや座れの姿勢を取らせる
  • 犬を刺激して攻撃的な行動を誘発する

引っ張ると締まるタイプのリードや首輪は単純に苦しいというだけでなく、頸椎の損傷、舌骨の骨折や脱臼、眼圧の上昇などの怪我や障害のリスクにつながります。

これらは普通の首輪を着けて激しく引っ張るリードショックでも起こり得るので、吊り上げることのリスクの大きさは計り知れません。

普通の首輪でも危険なことを金属製の鉤爪がついたプロングカラーで行なった場合のリスクも、また言うまでもありません。プロングカラーの場合は、皮膚への損傷リスクも加わります。

強制的に犬が望まない姿勢を取らせること、わざと刺激して攻撃的な行動を引き出すことは、ハンドラーや周囲の人間への攻撃のリスクを高めます。

上記のリスクは、問題となったトレーニング手法を用いることですぐに起こり得る事柄です。しかし、運良くこれらのリスクを短期的には回避できたとしても、問題をさらに複雑にする長期的なリスクがあります。

犬が心理的な損傷を受けた場合の長期的なリスク

歯を剥き出している小型犬

獣医行動学者協会は、犬に苦痛、不快感、恐怖を与えるトレーニング方法に反対することを明言。苦痛や不快感などはまとめて「嫌悪刺激」と呼ばれ、嫌悪刺激を使ったトレーニング方法は「嫌悪的なトレーニング」と呼ばれることもあります。

リードショック、プロングカラー、強制的に姿勢を変えるなどは嫌悪刺激であり、犬に恐怖や不安を植え付けます。

犬が攻撃的になる最も大きい理由は恐怖です。犬に恐怖や不安を植え付ける手法は一時的には問題行動がなくなったように見えても、実は深いところにもっと大きな問題の種を蒔いていることになります。

嫌悪刺激によって身体的な損傷が起こった場合には、痛みから攻撃的な行動を起こすことも少なくありません。また恐怖や不安などのストレスは、動物が何かを学習することを妨げます。

このように嫌悪刺激を使ったトレーニング方法は、短期長期ともにあまりにもリスクが高く、メリットがないのです。

犬が攻撃的になるのは、飼い主である人間を支配しようとしているからだという説も根強く残っていますが、現在の科学的な知見では、支配性は犬から人間への攻撃の一般的な原因として考えられていません。攻撃性の原因は、恐怖や葛藤などである可能性の方がはるかに高いとされています。

同協会は行動修正のためのトレーニングは、「望ましい行動の強化」および「望ましくない行動に対する強化の除去」を通じて行うことを提唱しています。

動物が望ましい行動をした時にはトリーツなどの報酬によってその行動を強化する、望ましくない行動をした時には何も報酬を与えないことで強化を除去するということです。

トレーニングだけでなく望ましい学習環境の整備、必要に応じて医薬品の使用も含めた包括的な対応が推奨されています。

まとめ

トレーニング中のヴィズラと女性

アメリカの獣医行動学者の協会が、嫌悪刺激を使ったトレーニング方法に対して正式に反対であるという見解を発表したという話題をご紹介しました。

体罰、大きな声や音といった嫌悪刺激を使った方法を避けるべきである理由は、非人道的で犬の福祉を妨げるというのはもちろん、これらは犬に恐怖や不安を植え付けることで将来のさらに大きな攻撃性を誘発することにつながり、学習能力を低下させるからです。

つまり嫌悪刺激を使うトレーニング方法は、効果がない上に犬にも人間にも危険であるということです。

嫌悪的なトレーニングが犬に与える悪影響については、世界の数多くの研究機関が調査を行ない、その結果を発表しています。また嬉しいことに、最新の知見に基づいた「正の強化」のトレーニング方法は、犬にとっても人間にとっても楽しいものです。

これからドッグトレーナーを探す予定の方、犬のトレーニングについて勉強しようと考えている方は、犬にも人にも楽しく効果的な「正の強化」の方法を選んでくださいね。

《参考URL》
https://www.dacvb.org/page/sep2023statement?fbclid=IwAR35YcnmTFDz6wYBacY8rvHAP55oT_oVs7UosRzxXnXP0C4mVQEwRdzorJE
https://www.dacvb.org

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