犬の孤独と人間の存在の関連について調査
犬は私たち人間と同様に社会性の高い生き物です。社会性の高い種は、社会的な関わり合いを失った時(つまり孤立や孤独な状態になった時)にストレス反応を示します。
このストレス反応は『孤立症候群』と呼ばれることもあるくらいに、さまざまなタイプの反応を示します。ホルモンの分泌の変化、行動上の変化、生理学的な変化など、さまざまな面に影響が現れます。
このような孤立症候群を和らげるために何が効果的であるのかを知ることは、犬だけでなく人間の孤立や孤独を知るためのモデルにもなり得ます。
犬の孤立や孤独に対して人間の存在がどのような効果を示すのか、また犬と人間とのつながりや関係性は、孤独の緩衝役としての効果に違いをもたらすのかどうかといったことを、イタリアのカンパニア大学とフェデリコ2世ナポリ大学の研究チームが調査し、その結果が発表されました。
3人の知らない人と過ごすvs1匹だけで放置の実験条件
この研究では、人間との社会的相互作用が限定されている犬が調査対象となりました。家庭犬のように特定の人間と直接的な絆や社会化の機会を持っていない犬たちです。
調査に参加したのは23頭のオーストラリアンキャトルドッグ(平均年齢5.48歳、全員メス)でした。
この犬たちはブリーディングのための農場で飼育されています。夜間は2〜3頭が収容される犬舎で過ごし、日中は犬舎を出て農場内で他の犬との自由な交流を含めた行動形式を持っています。
犬たちが人間との交流を持つ機会は毎日の掃除と給餌、時折行われる獣医療に限られています。また調査に参加した23頭は、全員がこの農場で生まれ育った犬たちです。
23頭の犬たちは無作為に2つの異なる実験条件に割り当てられ、13頭は社会的条件、10頭は隔離条件です。
実験は、犬たちが飼育されている犬舎から約100メートル離れた農場内の部屋で行われました。部屋の広さは約30平方メートル、通常は犬たちが近づかないエリアで犬にとっては初めての場所です。
犬たちは1頭ずつ部屋に連れて来られて15分間放置され、設置されたカメラで犬の様子が録画されます。
社会的条件では部屋に3人の人(男性1人、女性2人)が既に待機していました。3人は全員が犬にとって初めて出会う知らない人たちです。3人は犬の名前を呼んだり、軽く撫でたりして友好的な雰囲気を出し、犬はこの人たちと15分間を過ごしました。
一方、隔離条件では犬は誰もいない部屋で15分間を過ごしました。
実験後に犬のホルモン値を分析
実験室の様子を撮影した映像では、社会的条件の13頭は人との接触を避ける様子が確認され、人間との関わり合いは限定的でした。隔離条件の10頭は、ほとんどの時間を部屋の出口付近で過ごしていました。
犬たちは実験室に向かうために犬舎を出た直後と、実験室を出た直後に血液サンプルを採取し、これらサンプルのコルチゾールの濃度を分析し、実験前と実験後の状態が比較されました。
コルチゾールは、心身がストレスを受けると急激に分泌が増えることからストレスホルモンとも呼ばれます。
コルチゾール濃度の分析結果は、隔離条件と社会的条件で対照的でした。隔離条件の犬たちのコルチゾール値は、有意に増加しておりストレス反応を示していました。
一方、社会的条件の13頭は人間との接触を避けていたにも関わらず、コルチゾール値は増加せずストレス反応がないことが示されたといいます。
この調査結果は犬にとって馴染みのない人間であっても、社会的な緩衝役になり得るという証拠を提供する初めてのものとなりました。
またこの結果は、犬の情緒的な幸福にとって他者との社会的な関わり合いが重要であること、中でも人間と犬の関係が重要であることを改めて強調するものです。
人間が犬の社会的緩衝役になる根本的なメカニズムと、長期的な影響を探るためにはさらに研究が必要だということです。これらの研究は、さまざまな状況における犬の幸福の向上のための方法を開発するために役立つと考えられます。
まとめ
農場で人間との関わり合いが少ない状態で暮らしている犬を使った実験で、1頭だけ隔離された犬はコルチゾール値が上昇しストレス反応を示し、3人の見知らぬ人と短時間過ごした犬はストレス反応を示さなかったという調査結果をご紹介しました。
犬と強い結びつきのある飼い主さんや、普段から社会化されて馴染みのある飼育係ではない初対面の人間でさえ犬の孤独を和らげるというのは、家畜化の過程で犬が人間に社会的に依存するようになったことを示しているそうです。人類と犬の強い結びつきと長い歴史を改めて感じさせる研究結果ですね。
《参考URL》
https://doi.org/10.1016/j.applanim.2023.106039