犬の歩き方に異常が出る「ナックリング」とは
愛犬の歩き方に違和感を感じても、つい「たまたま何かにつまずいたのかも」とか「気のせいかな」と思ってしまい、そのままにしてはいないでしょうか。
歩き方の異常には裏に重大な病気が隠れていることが多く、気付いたら病気が進行してしまっていたということも少なくないため、軽く考えるべきではありません。
普通、犬は肉球を地面に付けて歩きます。しかし足先を内側に曲げ足の甲を地面に付けたり、爪を地面に擦り付けるように引きずりながら歩くことがあります。このような歩き方を「ナックリングと」いいます。
ナックリングにはさまざまな原因が考えられますが、ほとんどは神経の異常です。はっきりと症状が出ている場合は、すでに病気が進行してしまっているかもしれません。歩き方に違和感を感じたら、早めに動物病院で診てもらいましょう。
「ナックリング」の初期症状
「ナックリング」の初期症状では、はっきりとした特徴が見られないことも少なくありませんが、一般的に言われる症状としては「歩いていると、時々犬の足先がカクッとなる」という表現をされる場合が多いです。また、この「カクッとなる症状」の頻度が次第に高くなっていきます。
さらに症状が進行してしまうと、足先を内側に曲げたまま立ったり歩いたりします。自力では足先の向きを戻せませんが、関節が固まってしまうわけではないため、飼い主さんが簡単に元の位置に戻せます。ただし、歩き始めると、また内側に曲がってしまいます。
ナックリングの症状が出ている犬は、足の爪を地面に擦りながらズルズルと引きずって歩くこともあり、歩行がかなり困難になると転倒することもあります。
ナックリングは神経の異常により起こることが多いため、犬自身は痛みを感じていないことが多いです。そのため、放っておくと足先の甲や爪が傷ついて血まみれになることもあります。
愛犬の普段の歩き方をよく観察しておき、違和感を覚えたらすぐに動物病院に相談しましょう。
「ナックリング」の原因
ナックリングになる直接的な原因はさまざまですが、根本的な要因の多くは「神経の異常」です。全身を管理し統制しているのは脳ですが、その脳と四肢を繋げているのが神経で、四肢が受けた刺激を脳へ、脳の司令を四肢へ伝える役割を担っています。
正常な神経伝達の場合、足の向きが誤っていると、脳から「足の向きを直せ」と指令が来ます。しかし、神経の伝達の異常が起きると、足の感覚が脳に伝わらなくなったり、脳が正しい司令を出せなくなったり、正しい司令を出せてもそれが四肢に伝わらなくなったりするのです。
ではここからは、犬に発症する「ナックリング」の主な原因をご紹介しましょう。
神経の異常
脳と全身をつなぐ神経は、脊椎(頸椎、胸椎、腰椎、仙椎)を構成する骨の空洞の中を束になって通っています。頸椎を通っている神経に損傷が生じると前足に、胸椎より後ろの部分を通っている神経に損傷が生じると後ろ足に症状が現れます。
前足に症状があらわれる病気の一つに、「腕神経叢裂離(わんしんけいそうれつり)」があります。頸椎から前足に繋がっている神経の集まり(腕神経叢)がねじ曲がったり切断されることで、ナックリングや痛覚の麻痺が生じる病気です。
環軸椎不安定症(かんじくついふあんていしょう)も、前足に症状があらわれます。頸椎の1番目と2番目の関節が不安定になる病気で、小型犬や首が細い犬、引き癖のある中大型犬が首輪を引っ張ったときの負荷が発症原因の一つだともいわれています。
また、「椎間板ヘルニア」もナックリングの原因のひとつです。椎間板が飛び出す部位によって、症状が出る足が決まります。神経の腫瘍によっても同様な症状が出ます。
なお、高いところからの落下、交通事故、転倒、無理な姿勢などによる外傷が原因になることも少なくありません。
脳の異常
「脳腫瘍」や「脳炎」なども、発病した脳の部位によってはナックリングを起こすことがあります。
老化
犬の老化による筋力低下や脊椎の変形が原因で、足を上げづらくなったり神経伝達に異常が起こったりします。
最初はつまづきやすいとか転びやすいということが目立ち、次第にナックリングの症状があらわれることが多いです。
「ナックリング」の対処法
では、愛犬に「ナックリング」の症状が見られるようになったらどのように対処すべきなのでしょうか。
診察および治療
ナックリングと思われる症状が愛犬にみられたら、まずは動物病院で診察を受けることが大切です。
炎症を抑える薬や、神経や関節の機能を補助するサプリメントを飲ませたり、手術で治療できることもありますが、完治が難しい場合も。その原因や症状に合わせて、最適な治療を行います。
マッサージ
病院での治療と並行して、日常的なケアにマッサージを取り入れることも多いです。
プロの施術だけではなく、飼い主さんのマッサージも、愛犬にとってはメンタル面のケアも含めて高い効果が期待できます。かかりつけの獣医師に相談し、方法を教わりましょう。
サポートグッズの活用
ブーツやゴム製の足先カバー、サポーターなどで足先を保護できます。また、ハーネスや介護用の補助ベルトなどを利用することで、足を擦らずに散歩ができるケースもあります。
かかりつけの獣医師とよく相談しながら、その子に適したサポートグッズを選びましょう。
「ナックリング」の予防法
ダックスフンドやウェルシュ・コーギーなど胴長短足で体重が重い犬種は、遺伝的にナックリングを起こす病気になりやすい傾向があります。該当する犬種は特に体重管理や正しい抱き方を意識し、普段から脊椎に負荷をかけないことが大切です。またソファやベッドは脇にステップになるような物を置きましょう。
飼い主さんの帰宅時などに、興奮して後ろ足で直立したままジャンプする癖のある犬がいますよね。この行動も脊椎を痛めるため、そもそも興奮させないようにしましょう。さらに、滑りやすい床材の部屋には、マットを敷くと良いでしょう。
若い頃から散歩や適度な運動で筋力を付ける、シニア期になってもできるだけ散歩をさせる、足のマッサージで血行を促進するということも「ナックリング」の予防につながります。
まとめ
犬の「ナックリング」は、さまざまな原因で発症します。
しっかりと原因を究明し、獣医師と相談しながら焦らず気長に付き合っていく気持ちで対処することが大切です。
治療と並行して、普段の生活の中で飼い主さんがサポートしてあげましょう。