睡眠中の犬と脳の音声情報処理
犬は人間の声や他の犬の吠える声に反応します。声の主や声のトーンなど特定の発声に特定の方法で応えることは、聞こえた音声に基づいて犬の脳がさまざまな情報を処理できることを示しています。
音声の情報処理は犬が起きている間のことですが、睡眠中にも犬の脳はそのような情報を処理できるのでしょうか。
ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学動物行動学と自然科学研究センター認知神経科学研究所の研究チームは、犬が眠っている間に人間の家族や他の犬からの発声に対する神経反応を測定し、その結果を発表しました。
眠っている犬に音声を聞かせて脳波を測定
調査のための実験に参加したのは、エトヴェシュ・ロラーンド大学のファミリードッグプロジェクトに登録している13頭の家庭犬たちでした。
犬たちの内訳は、メス9頭、オス4頭、年齢は1〜10歳。犬種別では、雑種5頭、ゴールデンレトリーバー2頭、イングリッシュコッカースパニエル1頭、ジャーマンピンシャー1頭、スモールミュンスターレンダー1頭、エアデールテリア1頭。
実験は犬たちの午後の昼寝の時間を利用して、犬に負担や苦痛のない電極を使った脳波測定法を用いて行われました。
犬の頭部に電極を貼り付けるために、あらかじめご褒美を使った正の強化のトレーニングが行われ犬の協力を得ました。実験中、犬のそばには飼い主さんが座っています。
このようにして頭部に電極を貼り付けた犬が、覚醒状態、眠気が来た状態、ノンレム睡眠(深い睡眠)状態にある時に、研究員が別室から人間と犬の非言語的発声の録音を再生しました。
音声は各10種類のポジティブおよびニュートラルな犬の発声と、各10種類のポジティブな人間の発声(笑い声など)と、ニュートラルな人間の発声(あくび、一般的な声、ため息、咳など)です。
犬を驚かせたり怖がらせたりしないために、ネガティブな音声は含まれていません。各音声ファイルは1秒で、毎回同じ音量で再生され、各実験のセッションは約3時間で、犬の脳の反応の強さはミリ秒単位で記録され分析されました。
犬の脳は睡眠中も音声に複雑に反応した
脳波測定の結果は、犬の脳は覚醒時に加えて眠気が訪れた時、ノンレムの深い睡眠時にも音声に対して反応することを示していました。
さらに犬の神経反応は音声の主が犬か人間か、またそれぞれの声がポジティブかニュートラルかによって異なっており、このことから犬は2種類の睡眠段階において声の主の種の違いや、音声に含まれるニュアンスを区別できていると結論づけられました。
これは人間の脳が、睡眠中に音響的手がかりのさまざまな特徴を処理できるのと同様であることを示しています。
今回の実験はサンプル数の少ないものですが、犬における睡眠中の複雑な音声処理の最初の証拠となるものです。
まとめ
睡眠中の犬に人と犬の音声の録音を聞かせて脳波を測定したところ、音声の主の種類や音声がポジティブかニュートラルかによって、違う反応を示したという実験の結果をご紹介しました。
犬は眠っている間も音声の情報処理ができるという結果は、犬の神経処理能力に関する知識を広げ、さらに深い研究の基礎となるものだと研究者は述べています。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-023-40851-w