犬のニーズを把握するための仕組みを開発
人間と暮らしている犬たちが幸せでいるためには、人間が彼らのニーズを理解し応えることが必要です。
しかし残念ながら、人間は犬のニーズを自分のニーズと混同してしまうことがよくあります。これでは人間側でも犬側でも「どうしてわかってくれないのか」というフラストレーションが溜まってしまい、幸せな状態とは言えません。
このような状態に対応するため、オランダのユトレヒト大学獣医学部の研究チームとアメリカの非営利団体ドッグ・リホーミング・プロジェクトは、犬のニーズを客観的に把握するための仕組みを開発する研究に着手しました。
犬の欲求をマズローの欲求階層に当てはめる
心理学で人間の欲求について説明する『マズローの欲求階層説』という学説があります。アメリカの心理学者マズロー博士による説なのでこのように呼ばれています。
マズローの欲求階層とは「人間には5段階の欲求があり、1つの欲求が満たされると次の段階の欲求を満たそうとする」というもので、5段階の一番下が、食べたり眠ったりといった生理的欲求、次が安全に生きるための安全欲求、その次が他者と関わりたいという親和欲求、その次が他者から認められたいという承認欲求、5段階の頂点は自分の能力を発揮して可能性を追求したいという自己実現欲求です。
今回の研究では、犬特有の欲求を特定してマズローの欲求階層に適応させるという方法が取られました。
研究チームは、過去の査読済み論文、学術的な書籍、犬の行動学/進化学/獣医学などの出版物といった過去の文献を検証して、犬の欲求やニーズのリストを作成しました。
犬版『マズローの階層欲求』
研究チームによって過去の文献から37の犬特有の欲求/ニーズが特定され、人間の場合と同じように5段階の欲求階層に分類され、この分類は専門家のフィードバックを受けてより正確なものに調整されました。
一例としては、社会的欲求と認知的欲求の間に位置していた運動への欲求は犬にとって、生理的な欲求に当たると調整されました。確かに犬にとっての運動は食べることと同じように生理的なニーズですから、重要な調整が行われたといえます。
5階層の欲求(またはニーズ)をまとめたものは以下の通りです。ピラミット型の階層の一番下の部分から順に挙げています。
1.生理的欲求(必須項目)
- 清潔な水と食べ物へのアクセス
- 身体運動の提供
- 犬の年齢、犬種、健康状態に相応しい身体運動と運動時間
- 身を守るシェルターまたは住居へのアクセス
- 怪我や病気の治療、終末ケアを含む獣医療の提供
- 静かな場所で邪魔されずに休息や睡眠が取れる
2.安全欲求(必須項目)
- 犬が自分の行動を自分で選択できる
- 常に安全であると感じることができる
- 安全で清潔なトイレへのアクセス
- 清潔で衛生的な住環境
- ワクチンや健康診断など予防的な獣医療の提供
- トリミングなど体のメンテナンスの提供
- 犬の年齢、サイズ、健康状態、行動の特徴に相応しい寝床の提供
3.社会的欲求(必須項目)
- 人間に愛され受け入れられているという感覚
- 人間や他の犬とのコンスタントな社会的な関わり合い
- 犬の年齢や行動の特徴に相応しい、人間や他の犬との社会的な関わり合い
4.健全性欲求(推奨項目)
- 正の強化を使った罰を与えないトレーニング
- 環境に合わせた、行動面と感情面のサポート
5.認知的欲求(推奨項目)
- 認知刺激の提供(パズル、ゲームなど)
- 日々の変化(散歩コースの変更など)
- 犬の年齢、犬種、健康状態に相応しい認知刺激とセッション時間
人間の欲求を表すための確立された枠組みを犬に適用することで、犬の欲求が多様で複雑であることがよくわかります。
上記のように犬の欲求/ニーズを包括的に整理することで、人間が犬を擬人化する傾向から離れ、犬と人間の欲求/ニーズは必ずしも同じではないことを認識しやすくなるでしょう。このことで犬の生活の質や福祉の向上が期待されます。
まとめ
過去に発表された文献から犬の欲求やニーズを徹底的に洗い出し、それらを心理学で使われるマズローの欲求階層に当てはめた結果をご紹介しました。
確かにこのように犬の欲求やニーズを一覧にしてもらうと、新たに気づいたり改めて何が大切なのかが分かりやすくなります。
《参考URL》
https://doi.org/10.3390/ani13162620
https://www.thedogrehomingproject.org