犬と赤ちゃん言葉についての新しい研究
人が乳幼児や動物に話しかける時に、高い声や独特の抑揚のついた赤ちゃん言葉になることについては、数多くの研究が発表されています。
乳幼児や動物に対しては、大人同士のような言語によるコミュニケーションができないため、人々は無意識のうちに注意を惹きつけやすい高い声や独特のリズムを使うと考えられています。
そのような動物向けの赤ちゃん言葉について、この度また新しい調査結果が報告されました。イギリスのリンカーン大学とサセックス大学、フランスのサンテ・ティエンヌ大学、アメリカのアーカンソー大学リトルロック校の研究チームによる研究です。
犬の目の大きさは話し手の声に影響を与えるか?
大人が赤ちゃん言葉で話しかけることの効果や意味についての研究は、元々はその名の通り乳幼児に関する研究から始まりました。その後、ペットに対しての話し方についてのさまざまなことが、乳幼児向けの話し方の研究結果と一致していることがわかって来たといいます。
このことから研究者は、「幼齢動物の顔の特徴のひとつである目の大きさが、ペットに向けて話しかける時の声の韻律に影響する」という予測を立てました。
研究チームは12犬種の犬の画像を用意し、目の大きさを−15%、+15%、+30%の割合で加工しました。これら加工した3画像と、元々の目の大きさのオリジナル画像の計4画像が調査対象となります。
1つめの調査は、400人以上の人々が参加したオンライン調査です。参加者に12犬種分の4画像を見せて、画像の犬の性別、年齢、かわいらしさを評価してもらうというものです。
2つめの調査は、男性21名と女性24名の参加者の発話テストです。参加者に12犬種分の上記の4画像を見せて画像に対して話しかけるよう指示を出し、その時の声を記録して分析しました。
犬の目が大きいと、女性は声のピッチが高くなる
画像の犬の年齢などを評価するオンライン調査では、目の大きい画像の犬は「幼い」「若い」と評価されました。また目の大きい犬に対する若いという評価は、特に女性の参加者において顕著でした。
しかし犬のかわいらしさについての評価では、「目が大きいほどかわいい」というわけではありませんでした。
犬の画像への発話テストでは、男性と女性ではっきりとした違いが示され、男性の場合は、どの画像に話しかける時も声のピッチや抑揚は変わりませんでした。一方、女性の場合は目の大きさが15%増加すると、声のピッチの領域と振動が有意に増加を示しました。
ただし、小型犬の画像で目の大きさを30%増加させた時には、目が大きすぎて「不気味の谷」現象が起こり、見る人を不安にさせたようでした。この場合、話しかける声も通常時のピッチに近い感じになっていました。
これらの結果は、犬の大きな目は女性の赤ちゃん言葉を誘発するということを裏付ける予備的な証拠となりました。また赤ちゃん言葉は、話し手が犬の可愛らしさよりも幼さを知覚することで発せられる可能性があると研究者は述べています。
まとめ
犬の目の大きさを加工した画像を使った発話テストで、女性は目の大きい犬に対しては、声のピッチがより高くなり抑揚が強くなったという結果をご紹介しました。
犬や猫に対しては、無意識に高い声や語尾を変化させた話し方をしてしまうという現象は多くの人が経験しています。そのような様子を他の人に見られたりすると少し気恥ずかしかったりもするのですが、赤ちゃん言葉を使ってしまう裏には、論理的な理由があるというのは興味深いですね。
《参考URL》
https://doi.org/10.1075/is.22032.for
https://phys.org/news/2023-08-puss-boots-effect-dog-eye.html