犬の呼吸器と消化器の疾患の関連を調査
犬が咳をしたり呼吸がしにくいような症状がある時には、まず呼吸器系の疾患が疑われ、気管や肺など呼吸器に異常が見つかれば、その部分の治療をしていくことが普通です。
さらに踏み込んで「消化器にも異常があるのではないか?」と検査をすることはほとんどないでしょう。
しかし、このたびアメリカのミズーリ大学獣医学部の研究チームは、犬の呼吸器と消化器の疾患は、しばしば関連していることを発見したと発表しました。同研究チームは、これら2つの疾患の相互関係を約10年にわたって調査しています。
呼吸器疾患の犬と健康な犬の摂食の様子をX線撮影
この研究は2020年7月から2022年5月の間に、ミズーリ大学獣医学ヘルスセンターに来院した45頭の犬と、同センターの職員の愛犬15頭を対象として行われました。
45頭は咳、呼吸困難、聴診可能な異常呼吸音などの呼吸器系の症状があるが、嚥下障害、胃酸逆流、嘔吐の消化器系の症状を伴わない犬たちです。
職員の愛犬15頭は過去2ヶ月の間に、呼吸器系および消化器系の症状の徴候がなかった健康な犬たちで、比較のための対照群として採用されました。
呼吸器症状のある45頭はビデオ嚥下造影検査、胸部CTスキャン、気管支鏡検査、細胞診のテストを受け、対照群の15頭はビデオ嚥下造影検査だけを受けました。
ビデオ嚥下造影検査とは犬が液体、流動食、ドライフードを飲んだり食べたりする際の食道や胃上部の動きを、X線を使ってビデオ撮影する検査方法です。撮影時、犬たちには拘束具は使われず、与えられた飲食物を自由に摂取するようセットされました。
呼吸器症状のある犬の75%が飲食物の飲み込みに異常
ビデオ嚥下造影検査の結果、呼吸器症状のある45頭は75%の34頭に逆流や食道虚弱などの異常が認められました。対照群の15頭では異常が認められたのは13%にあたる2頭で、呼吸器症状のある犬では飲食物を飲み込むという消化器の働きの異常が有意に多かったことが示されました。
興味深いことに対照群で異常の見つかった2頭は、その後1年以内に呼吸器系の症状を発症しました。
この検査結果は、呼吸器疾患のある犬は胃食道逆流性疾患や、嚥下障害などの異常がある可能性が高いこと、また食べ物や液体が誤って肺に流れ込んでしまうリスクが高いことを示しています。
呼吸器疾患を持つ犬に対して、犬の飼い主と臨床医は消化器系に問題がある可能性を確認し、注意深く観察する必要があると研究者は述べています。
また呼吸器疾患がある場合には、ドライフードからウェットフードへの変更、フードに含まれるタンパク質や脂肪の見直し、体重の調整、手術などを獣医師と検討することを勧めています。
短頭種の犬は鼻や口腔の構造のために呼吸器系の問題を抱えやすいこと、食べることに興奮する傾向のある犬は食べ物や液体が肺に入ってしまうリスクが高いことから、早食い防止のフードボウルなども一考の価値があります。
まとめ
呼吸器疾患のある犬を対象にした調査において75%の犬に消化器疾患が見つかったという結果をご紹介しました。
この調査で使われたビデオ嚥下造影検査は、一般的には呼吸器疾患の犬の検査に十分に活用されているとは言えない状態で、隠れた消化器疾患を発見するための今後の課題のひとつだそうです。
愛犬が呼吸器系の病気になった時に消化器系の病気のリスクがあることを知っておくと、かかりつけの獣医師への相談や食事の際の注意などに違いが出る可能性があります。
《参考URL》
https://doi.org/10.1111/jvim.16685