犬のワクチンについてのアンケート調査
先ごろアメリカで行われた犬のワクチンについてのアンケート調査から、犬の飼い主の約半数が犬のワクチンの安全性、有効性、必要性に何らかの懸念を抱いているという傾向が示されました。
このアンケート調査はアメリカのボストン大学公衆衛生大学院、コロラド州立大学政治学部、臨床獣医師の研究チームによって実施されました。調査結果が示すこの現象は、人間と動物両方の健康に有害な結果をもたらす可能性があるとして、研究者が警告を発しています。
ワクチンへの懸念と誤った認識が拡まっている
アンケート調査は2023年3月から4月にかけて調査サンプリング会社を通じて、アメリカ全国の2,200人の犬の飼い主を対象に実施されました。
この調査は、犬のワクチン接種に関する懸念がどのくらい広まっているのか、懸念の発生原因、健康政策への影響を明らかにした初めてのものです。
言うまでもなく、狂犬病も含めた犬のワクチンは感染症から愛犬を守るために重要なものですが、少なくない数の人々が「安全ではない」「効果がない」「必要ない」と考えていることがわかりました。
40%近くの人がペットのワクチン接種は安全ではないと考え、20%以上がワクチンは効果がないと考え、30%が医学的に不要だと回答し、さらに驚いたことに37%の人が「犬のワクチン接種は自閉症と関連している」という、科学的に裏付けのない考えを持っていました。
人間の小児用ワクチンや成人用ワクチンの安全性や有効性に懐疑的な人々は、犬のワクチンについても同じように懐疑的であることもわかりました。アメリカでも日本と同様に狂犬病ワクチン接種が法律で義務付けられていますが、人間のワクチンに懐疑的な人々は、狂犬病ワクチン政策に反対を唱える割合が高くなっていました。
このような傾向は、パンデミックを通じてCOVID-19ワクチンに対する懐疑論が急増したことと関連しています。研究者は、人間へのワクチンの安全性と有効性に対する信頼を回復することの重要性を強調しています。
なぜ犬のワクチン接種が必要で重要なのか
なぜ犬にワクチン接種をすることが必要なのか、それはもちろん犬を感染症から守るためです。特にコア・ワクチンと呼ばれるワクチンは、治療法のない重篤な感染症を予防するために非常に重要です。
コア・ワクチンの対象のひとつである狂犬病は、致死率100%の病気です。別のコア・ワクチン対象の感染症であるジステンパーは、治療法が確立されていません。
しかしこれらのワクチンは、長年にわたって安全性と有効性が証明され続けています。ワクチンにも副作用はありますが、重い感染症に罹るリスクとは比較になりません。
犬がワクチンを接種していない場合、周囲の人間もまた感染のリスクに晒されます。特に、動物病院の獣医師やスタッフがワクチン未接種の動物に噛まれた場合には、影響は深刻です。
噛まれた人は直ちに医師の診察を受ける必要があり、噛んだ動物は一定期間施設で隔離観察されます。このような事例が増えれば社会問題にもなり得ます。
日本でも狂犬病ワクチンの接種率の低下が問題となっており、アメリカでの調査結果は他人事ではありません。日本は狂犬病清浄国であるとは言っても、船荷に紛れた小動物などからのウイルス媒介は決してあり得ないとは言えません。
愛犬へのワクチン接種は、愛犬はもちろん、自分自身や家族、社会全体を守るために必要不可欠なものです。
まとめ
アメリカで「犬のワクチン接種への懸念がどのくらい拡まっているか」を調査した結果から、約半数という驚くべき割合で犬のワクチンに懸念を抱いている人がいることをご紹介しました。
研究者は、犬のワクチン接種へのためらいは今のところは公衆衛生に脅威を与えるほどには拡まっていないと考えています。しかし人間の麻疹のワクチンに反対する人々が出るこの時代、継続的な研究と正しい情報の発信がより重要になっていると述べています。
《参考URL》
https://doi.org/10.1016/j.vaccine.2023.08.059
https://www.sciencedaily.com/releases/2023/08/230831142809.htm