介助犬のハンドラーが感じる「セカンドドッグ症候群」
以前に犬を飼っていた人が新しく犬を迎えた、あるいは先住犬がいる家庭で2頭目や3頭目の犬を迎えたという場合に、「前の犬はもっと賢かった」と言ったり「今度来た子は悪いことばかりして」と愚痴をこぼすという光景を目にすることがあります。
実はこれは「セカンドドッグ症候群」という名前がついている現象なのだそうです。
元々は盲導犬など介助犬の訓練施設の人が呼び始めたもので、2頭目の介助犬を迎えた人が犬を返品する割合は、初めて介助犬を迎えた人に比べて高いことが過去の研究によってわかっています。
では介助犬ではなく、一般的なペットの犬の場合はどうなのでしょうか。この点についてオーストラリアのモナシュ大学とラ・トローブ大学の研究チームが調査を行ない、その結果が発表されました。
ペット犬の飼い主と介助犬のハンドラーから意見を収集
調査への参加者は、Facebookへのオンライン広告によって募集されました。この調査では一般的なペット犬の飼い主と、介助犬のハンドラーの両方が募集されたそうです。
参加の条件は「以前にペット犬/介助犬を亡くしたことがある」「現在の犬でセカンドドッグ症候群を経験している、または以前に経験したことがある」というものでした。
セカンドドッグ症候群の定義は、「2頭目の犬に対する考えや感情が、1頭目の犬に対するものに比べて必ずしも肯定的でない、または1頭目の犬に対する思いほど強くない」とされました。
最終的にペット犬の飼い主の女性5名と、介助犬のハンドラーの女性5名が調査に参加しました。参加者はZoomを使ったグループセッションに参加して、犬に対する思いをテーマに沿って話し合うという形でデータが収集されたそうです。
グループセッションは計3回行われ、1回目は2人のペット犬の飼い主、2回目は3人のペット犬の飼い主、3回目は5人の介助犬ハンドラーが参加しました。
後継犬症候群は犬ではなくて人間の心の問題
グループセッションで寄せられた参加者の声を分析した結果、セカンドドッグ症候群は、ペット犬の飼い主と介助犬のハンドラーの両方で同じように経験されることが示されたといいます。
また、飼い主とハンドラーどちらにとっても「前の犬の方が」と感じる現象は、2頭目に限ったことではなく3頭目でも同じ経験をしていたため、研究チームはセカンドドッグの代わりに、「後継犬症候群」という呼び方を採用することにしました。
介助犬ハンドラーに特徴的な後継犬症候群は、「新しい犬を信頼できない」「作業能力が劣っている」「自立への不安」があり、ペット犬飼い主に特徴的だったのは「この犬を失った時にまた傷つくことへの恐怖」でした。
言うまでもなく、後継犬症候群は犬のせいではなくて人間側の心の問題です。1頭目の犬も迎えたばかりの頃は、お互いに意思の疎通が難しく苦労したはずなのですが、たいていの人はそのことを忘れてしまいます。
1頭目がまだいっしょにいる場合には、その犬の現在の姿と迎えたばかりの2頭目を比べてしまうために、「2頭目とはコミュニケーションができない」ということになります。
また、2頭目は先住犬から学習することが多いため、飼い主よりも犬同士の絆が強くなることがあります。
1頭目がすでに亡くなっている場合には、苦労した思い出を忘れていることに加えて美化された思い出との比較が起こることもあります。さらに「また犬を失うことへの恐怖」を持った状態では、犬との関係性を深める障害になる可能性もあります。
まとめ
ペット犬の飼い主と介助犬のハンドラーへの聞き取り調査から、どちらの場合も「前の犬の方が信頼できて賢かった」と感じる後継犬症候群を経験しており、それは人間の心の問題であるという結果をご紹介しました。
先代の犬との苦労した経験を忘れてしまうのは、その犬との楽しく幸せな時間が苦労を大きく上回るものだったからでしょう。新しく迎えた犬と同じように幸せな時間を持つためには、先代犬にかけたのと同じように時間と努力が必要です。
セカンドドッグ症候群(後継犬症候群)は初めて聞いた名前でしたが、犬と人間の関係性について考えさせられる問題でした。
《参考URL》
https://doi.org/10.1080/08927936.2023.2232660