犬の近親交配は平均余命に影響するだろうか?
犬は何千年にもわたって、人間の手で選択され育種されて来た動物です。現在「純血種」と呼ばれるのは、選択の末に生まれて来た犬種です。
しかし近年の純血種の選択繁殖の基準は作業のための身体能力よりも、見た目の美しさや珍しさに偏って来ています。
この問題は長く指摘されており、犬の遺伝病や極端な姿形から来る身体的障害など、犬の健康と福祉を脅かすものとして改善が叫ばれています。純血種では近親交配の多さもまた問題視されており、近親交配によって生まれた犬の健康問題が数多く研究されています。
このような取り組みの一つとして、このたびポルトガルの農業食糧システム研究開発センターとイギリスのダラム大学の研究チームによって、雑種、交雑種、純血種の犬の医療データを分析することで、近親交配と平均余命の関係を明らかにするという研究結果が発表されました。
純血種、交雑種、雑種の犬の医療データを比較
研究のためのデータは。イギリスの王立獣医科大学が管理するVetCompassというプログラムから提供されました。
研究チームは、VetCompassの2016年の30,470頭の犬のデータを分析しました。イギリス、アメリカ、オーストラリアのいずれかのケネルクラブで公認とされている犬種を純血種、親の一方だけが純血種の犬を交雑種、公認されていない犬だけを親に持つ犬は雑種として分類され、その内訳は、純血種24,102頭、交雑種3,962頭、雑種2,406頭でした。
この3つのグループ区分は、予想される近親交配係数が異なるグループとして定義できます。閉鎖された集団で繁殖された純血種の犬は、雑種よりも近親交配係数が高くなります。純血種の祖先を1頭だけ持つ交雑種は中間の近親交配係数となります。
これらの犬の病気の罹患率、生存率、平均余命などが比較分析されました。
純血種と雑種で余命や罹病率に明らかな違いがあった
分析の結果は非常に有意でした。平均余命は雑種犬が最も長く、次いで交雑種、純血種が一番短くなっていたといいます。
罹病率の高さは近親交配係数の高さと関連していました。つまり純血種で最も高く、交雑種では純血種よりも17%低く、雑種では39%低くなっていました。
この結果は倫理的な犬の繁殖が、犬の健康と福祉を改善するための大きな役割を担っていることを示しており、ブリーダー、一般の飼い主、動物保護団体にとって大きな意味を持つものだと研究者は述べています。
純血種の犬の罹病率を低下させ、生存率を向上させるためには近親交配係数を下げる必要があります。また各種遺伝病についても、原因となる遺伝子をコントロールする繁殖が求められます。
繁殖の改善については既にいくつかの成功例があります。例えばドイツのケネルクラブでは、代表的な遺伝病である股関節形成不全の発生率を低下させるための取り組みに成功しています。
繁殖に使われる親犬には股関節を診察するスコアリングを義務化し、スコアの低い親犬にのみ繁殖を許可するというシステムによって、ドイツの血統書付きの犬の集団における股関節スコアは、他国に比べてより早く改善しています。
まとめ
純血種、交雑種、雑種の犬の医療データを比較分析したところ、近親交配係数が高い純血種の犬は平均余命が短く罹病率が高いという結果が出たことをご紹介しました。
この結果は、一般の飼い主も科学的かつ倫理的な繁殖を行なっているブリーダーを選択することの大切さを知っておく必要があることを示しています。
近親交配を行なっているような繁殖業者から犬を購入することは、寿命が短く病気に罹る可能性の高い犬を生み出す連鎖につながるからです。
《参考URL》
https://doi.org/10.7717/peerj.15718