犬の顔の模様とコミュニケーションの関係
人間に最も近い場所で暮らし、人間の社会での役割をもっている動物である犬について、数多くの研究が行われています。中でも犬が、人間とどのようにコミュニケーションをとるかを理解することは、犬と人間両方の福祉のためにとても重要です。
このたび、犬の顔の模様は人間から犬を見た時、表情の豊かさに影響を与えているかどうかというユニークな調査研究が行われ、その結果が発表されました。
研究を行ったのは、アメリカのジョージ・ワシントン大学、バージニア工科大学、ハーバード大学の研究チームです。
犬の顔の模様と表情をスコア化して分析
この研究に参加したのは103頭の犬とその飼い主です。参加者はソーシャルメディアやプロジェクトのウェブサイトを通じて募集され、犬はワーキング、トイ、テリア、スポーティング、ノンスポーティング、ハーディング、ハウンド、雑種の8つの犬種グループから選ばれました。
参加犬の年齢と内訳は、6ヵ月〜2歳(若犬)20頭、2.1歳〜6.9歳(成犬)49頭、7歳以上(シニア)34頭、平均年齢は5.2歳だといいます。
参加犬のトレーニング経験は、トレーニング未経験40頭、基本的なトレーニング31頭、高度なトレーニングまたは作業犬32頭でした。
- 1. 犬が安静にしている状態でアイコンタクトなし
- 2. 犬とアイコンタクトだけ行い、話しかけやジェスチャーなし
- 3. 犬とアイコンタクトを行い、犬が聞き慣れない言葉やフレーズで話しかける
- 4. 犬とアイコンタクトを行い、犬が聞き慣れた言葉で話しかける
3の聞き慣れない言葉は、参加者全員が統一して「古代エジプト人はファラオを称えるため巨大なピラミッドを作った。これらの遺跡は長年にわたって発掘され、ミイラや美術品などが発見されている。」というものでした。
犬の顔の模様、犬の顔の表情はどちらも客観的に評価するためのスコアが開発されました。犬の顔の模様は、顔全体の色の変化、知覚できるマークやパターン(目周りの模様、麻呂眉、マズル周りの色の変化、斑点、額のM字模様など)などに基づいて、その複雑度がスコア化されたそうです。
犬の表情については、Dog Facial Action Coding System(DogFACS)という顔面解剖学に基づいて、犬の顔の動きを識別分類するためのシステムを使って、客観的なスコアを割り出しました。
参加した飼い主は犬の行動に関する質問票に回答して、犬の表情を読み取る能力が測定されたそうです。
犬の表情が示す人間との関係性
分析の結果は、研究者自身が「少し意外だった」と言うものでした。
研究チームは「顔の色が単色」「顔に模様がない」などのシンプルな顔の犬は、複数の色や複雑な模様の顔の犬よりも、人間と接する時により多くの顔の動きをするように(=表情豊かであるように)見えることを発見しました。
しかし、犬は人間社会の中で仕事をこなすために意図的に選択繁殖されてきた歴史から、どのような外見的な特徴を持つ犬でも、人間とうまくコミュニケーションをとる能力を持っている必要があります。
それは顔の表情も含めて、コミュニケーション能力の高い犬が選択されて来たということですから、「この研究では統計的な相関が見られたが、おそらく顔の模様や色彩は犬の顔の動きの能力に生物学的な影響を及ぼしていない」と研究者は考察しています。
シンプルな顔の犬の方が表情豊かに見えるのは、むしろ犬ではなく人間側の理由である可能性も指摘されています。つまり顔の模様や色彩は、見ている人間にとって犬の表情を不明瞭にする可能性があり、視覚的なじゃまのない分シンプルな顔を表情豊かだと感じるのかもしれません。
動画の撮影時の条件による違いでは、2と3では飼い主からの声掛けまたは自分にとって聞き慣れた言葉を待つように、眉毛上げ、まばたき、眼球の動きなどが多く観察されました。
条件4では、2や3のように顔の上半分だけでなく、顔面全体の動きが多く観察されました。アイコンタクトをしながら犬になじみのある言葉で話しかけた時に、犬の表情はより豊かであるということです。
犬の年齢による表情の違いでは、7歳以上のシニア犬のグループでは表情の動きが小さくなる傾向が確認されました。
これは筋肉や認知能力の老化による可能性もありますが、長年人間といっしょに暮らして来た犬は人間との相互理解が確立しているため、大きな表情で理解されるための努力が必要がないためではないかと研究者は指摘しています。
まとめ
犬の顔の特徴と表情を分析した結果、シンプルな顔の犬は表情が豊かに見えること、成犬はシニア犬よりも表情豊かであることなどがわかったという研究結果をご紹介しました。
犬が人間とどのようにコミュニケーションを取るのか、どのように表現するのかを知ることは、私たちが犬とどのように接すればより良いコミュニケーションを取れるのかを明らかにしていくためにとても大切です。研究者は「犬という仲間をもっと理解するために、人間はもっと努力できるはずだ」と締めくくっています。
《参考URL》
https://doi.org/10.3390/ani13142385