薬剤耐性菌リスクを低下させる、犬の感染症の迅速な検査方法の開発
抗生物質(抗菌薬)はさまざまな感染症の治療の決め手となる薬ですが、これらの薬に耐性を持つ薬剤耐性菌は、人間と動物の健康にとって大きな脅威です。
細菌の薬剤耐性の拡大を防ぐための対策のひとつは、細菌種に効果的な薬剤を処方すること、つまり必要のない抗菌薬を処方しないという取り組みが重要です。
感染症の治療には、原因菌を特定して適切な抗菌薬を決定するために培養や抗菌薬感受性検査が行われますが、これには通常48〜72時間を要し、原因菌が特定できるまでは幅広い細菌に効く、広域抗菌薬が処方されることがよくあります。
検査にかかる時間を短縮できれば、広域抗菌薬を使う必要がなくなり、細菌が薬剤耐性を持つリスクを低下させることにつながります。
このたびイギリスのエディンバラ大学ロスリン研究所と同大学獣医学部の研究チームによって、より短い時間で犬の細菌感染を診断する新しい方法が開発されたという発表がありました。
犬のサンプルをメタゲノム解析によって検査
研究対象となったのは、犬の尿路感染症と皮膚感染症という2つの一般的な感染症でした。培養を必要とせず、短時間で最適な抗菌薬を特定するために採用されたのは、メタゲノムシーケンスパイプラインを用いる方法でした。
メタゲノムシーケンスとは、サンプル中の全ての細菌のゲノムDNAを抽出収集し、これらの塩基配列を読んでいくことで、さまざまな細菌の同定や機能解析を行うことを指します。パイプラインとは、研究開発段階にある医薬品や医療製品のことです。
この研究では新しい診断パイプラインを開発するために、犬の尿サンプルと皮膚のスワブ(綿棒)サンプルを使って、さまざまなDNA抽出キットをテストし、DNA抽出のための細菌の溶菌処理と配列決定プロセスの最適化に取り組みました。
検査結果を受け取るまでの期間が数日から数時間に短縮
この取り組みによって、研究チームは5時間以内にサンプルに存在する細菌を特定するためのプロトコル(手順)を開発しました。
この方法によって細菌感染を迅速に診断し、検査当日中に適切な抗菌薬を処方することが可能になり、犬の感染症回復までの時間が短縮される可能性があります。
この診断パイプラインは費用対効果が高く、小規模な動物クリニックから大規模な動物病院まで、さまざまな臨床現場で使用することができるとのことです。
犬の尿路感染症や皮膚感染症に続いて、他の多くの動物種や人間にも使用できる可能性があり、他のタイプの感染症にも応用できると考えられます。
まとめ
犬の細菌感染症治療に適切な抗菌薬を特定するための新しい検査方法が開発され、従来は結果が出るまで数日かかっていたのが、5時間以内に薬の処方が可能になったという研究結果をご紹介しました。
この方法によって感染症からの回復を早くするだけでなく、最適な抗菌薬を処方するまでの間の広域抗菌薬を使う必要がなくなることで、薬剤耐性ができるリスクも回避できます。対費用効果も高いということですので、広く使われるようになることが期待されます。
なお、この研究プロジェクトはイギリス最大の犬保護団体であるドッグズトラストから資金援助を受けて行われたそうです。
《参考URL》
https://doi.org/10.1099/mgen.0.001066