犬が人を咬む理由
犬たちが飼い主をはじめとする人間を咬む理由は様々あります。
まだ年端のいかない子犬の場合は力加減が分からず、興奮するとすぐに実際に歯を当ててきたり力を込めて咬んでしまったりします。また歯の生え変わり時期でもあるためむず痒かったり気になってしまって固いものをがりがりと齧りたくなったりするようです。しかし、子犬だから仕方がないと考えてしまうのは少々安易かもしれません。鼻にしわを寄せて噛んでくる場合は注意が必要です。
では、成犬の場合はどうでしょうか。
成犬の場合は、遊びの要求などで人間や相手の犬を咬むことは減っていきます。しかし体の不調や脳機能の異常などで過度の興奮状態にあったり、恐怖体験によるトラウマを持っていたりすると、そのストレスを解放するように咬む行為に走ることがあります。
また人間を咬むことで「嫌なことが終わった」「人間が言うことを聞いた」という学習が強化されてしまうこともあります。
このような成犬の「咬む」強さと危険度による「咬みつきレベル」という指標があります。どのような咬み方が危険で、早急な対処が必要なのでしょうか。
「咬みつきレベル」と対応策
ではここからは、動物行動学者のイアン・ダンバー博士によって作成された咬傷事故査定基準である「咬みつきレベル」によって、段階ごとの違いを確認していきましょう。
咬みつきレベル(1)
これは実際に歯を当ててはこないものの、嫌な事をされたり要求を通そうとしたときにガッと咬みつくような仕草をしたりする威嚇状態を指します。歯が当たらないのでケガはしませんが、「これ以上やったら本当に咬むぞ」という脅しです。
これを許容すると、犬は「咬む真似をしたら人間が怯んだ」と覚えます。ただの我儘であれば問題がありますが、身体の不調や痛みに対して「触るな」という反応であることも考えられます。
何を要求していたのか、なにをしたら怒ったのか、怖がったのかということをしっかり観察し、犬の意図するところを読み取る必要があるでしょう。
咬みつきレベル(2)
爪切りや手足のブラッシングなど、犬が嫌がることを続けてしまったり、ちょっと怖がらせてしまったりしたとき、口を開けて歯を当てるようにしてくることがあります。実際に歯が当たるので、当たり所によってはかなり痛みを感じるでしょう。
場合によっては少し出血するかもしれません。
犬自身は歯を当てようとしてくる場合もあれば、当てようと思っていなかったのに当たり所が悪かった、という場合もありますので、ハッとした顔をして自分から口を閉じることが多いでしょう。いけないということは十分に分かってやっています。
こちらも飼い主側が怯んでしまうと犬は「要求が通った」と覚えてしまうので、基本的なトレーニングを繰り返しながら、おやつなどを用いて犬が飼い主のやることを受け入れられるように練習することが必要です。
咬みつきレベル(3)
こちらは、「犬が自身を守るために相手を咬む」行動です。そのため人間の手や足といった部分の皮膚に歯があたり、場合によっては小さな咬みキズが出来るほどの力です。驚いて手を引いてしまうと刺し傷だけでなく、ひっかいたような裂傷になることがあります。
恐怖などから起こる行動なので、犬が何に対して怖がって興奮しているのかよく観察し、恐怖の対象を取り除いたり少しずつならして平気だという事を教えてあげることが大切です。
咬みつきレベル(4)
身を守る以上に「明らかに相手に攻撃をするために咬む」行動です。歯はそれなりに深く刺さり、出血を伴うケガを生じます。また咬んだ後に首を振ったり相手を引き倒そうとしたりするため、咬まれた部位が裂傷となることが多いです。
この行動が見られた場合、飼い主だけで対処することは非常に難しくなります。飼い主や人間に対して恐怖や害意があるため、メンタルのケアを含めてドッグトレーナーや訓練士などのプロに相談をしましょう。
咬みつきレベル(5)、(6)
人に対し、一度に何回も深く咬みついたり急所を狙ってきたりと、明らかに相手を倒すために咬んでいる場合は、トレーニングによる改善が見込めないと見なされることが多いようです。このレベルの犬は精神的、肉体的な病気であることも考えられますが、獣医師による安楽死となる可能性が高いです。
また、人間がこのような咬まれ方をした場合、首や太ももなどの大きな血管が通っているところを狙われていることも多いため、場合によっては失血死してしまう可能性もあります(レベル6)。
明らかに精神状態がおかしい、興奮しすぎているような犬にはまずは近寄らない、という選択を取りましょう。
まとめ
今回紹介した「咬みつきレベル」は、動物行動学者の『イアン・ダンバー博士』によって作成された咬傷事故査定基準です。この基準に照らし合わせると、報告されている咬傷事故の99%がレベル1か2にあたるということでした。
つまり、犬が人を咬んでしまった場合、強い攻撃性を示したというよりは何かにおびえていた、あるいはちょっと興奮してしまったということが主な原因であり、飼い主側がその原因を突き止めてゆっくりとトレーニングをすることで、再発が防止できることを示しています。
逆に言えば、出血を伴うようなケガをさせるほど強く咬む、攻撃する犬については、専門家による矯正と適切な矯正器具などの使用を勧められるでしょう。また、レベル(5)、(6)に達する犬の場合、脳や神経の何らかの病気があることも考えられます。
愛犬に咬みつき行動が見られた場合、どのレベルに相当するのか、原因は何かをしっかりと観察することが大切です。