犬と人間のガンの類似性をより理解するための遺伝子研究
犬は人間とほぼ同じ環境で生活していることから、健康上の問題で人間と共通する点が数多くあります。中でも犬のガン治療の研究は人間の治療への応用が期待されることから、獣医学と医学の両面から取り組まれている例がたくさんあります。
このたび、アメリカのマサチューセッツ工科大学とハーバード大学が運営するブロード研究所、ジョージア大学、ワン・ヘルス・カンパニーの研究チームによって、犬のガンと人間のガンの類似性をよりよく理解するための、遺伝子変異の研究結果が発表されました。
犬と人間の遺伝子変異を比較
この研究ではアメリカで一般的な23種のガンを持つ、96犬種671頭の家庭犬の腫瘍サンプルが調査されました。23種類のガンのうち最も多いのが血管肉腫、次いで軟部肉腫、黒色腫、骨肉腫、肛門嚢腫でした。
また、これまで遺伝子変異が特徴づけられていないもの(神経内分泌ガン)や遺伝子変異の研究が十分に行われていないもの(甲状腺ガン、肝細胞ガン、肥満細胞腫)も含まれていました。
研究チームは、犬の腫瘍サンプルから検出された42,566の遺伝子変異を分析し、最終的に50の確率されたガン遺伝子と、ガン抑制遺伝子の変異が発見されました。これらを人間のガンで報告されている遺伝子変異と比較しました。
犬と人間のガンに関連する遺伝子変異の類似性が明らかに
犬と人間のガンの遺伝子変異を比較した結果、いくつかの重要な遺伝子変異にこれまで知られていなかった類似性があることが明らかになったそうです。
犬においてガンの主要な促進因子と考えられる18の遺伝子変異が特定され、そのうちの8つは人間のガンにおける遺伝子変異と重複していました。
例えば、TP53という人間のガンで最も多く変異が発生する遺伝子は、犬においても最も変異が多く、発生する遺伝子であることがわかりました。この研究では、犬のガンの25%(血管肉腫や骨肉腫では特に多い)にTP53の遺伝子変異が見られ、TP53遺伝子の変異はガン細胞の増殖と転移を引き起こします。
犬と人間のガンに共通点があることを証明することで、犬のガン患者の治療データを用いて、犬と人間両方に使えるガン治療法の開発が加速することが期待されます。また反対に、人間のガン治療法が犬に使用される可能性もあるでしょう。
人間のガン医療では、ガンの組織を用いて塩基配列(シークエンス)解析を行い、診断や治療方針決定に役立てるクリニカルシークエンスと呼ばれる検査が行われるようになっています。
犬のガンのゲノム研究はまだそこまでは追いついていない状況ですが、この研究に携わったワン・ヘルス・カンパニーは、犬のガンの種類に合わせたゲノム検査を開発しています。この研究結果は、さらに精密な犬のクリニカルシークエンスにも役立つ可能性があります。
まとめ
犬のガンと人間のガンに関連する遺伝子変異を比較したところ、犬のガンのゲノム上の要因は人間のガンのゲノム上の要因と非常によく似ており、今まで知られていなかった類似性も明らかになったという研究結果をご紹介しました。
マウスやラットに人為的にガンを発生させて研究するのではなく、犬に自然に発生したガンを研究することで、人間のガン治療にも役立てるという方法はwin-win-winだとも言えます。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-023-37505-2