犬の「甘噛み」を放置しておくとどうなるの?
犬が人の手足や家具などにじゃれつきながら、本気を出さずに軽く噛みつくことを「甘噛み」といいます。甘噛みは、本気噛みとは異なり攻撃するつもりで噛んではいません。力も加減しているため、あまり害がないことが多いです。
また噛むことは、犬が自然と身につけている習性であり、本能です。そのため、噛むという行為を簡単にやめさせることはできません。無理にやめさせてしまうと、噛みたい欲求が満たされずに強いストレスとなり、逆に問題行動につながってしまうことがあるためです。
では甘噛みをそのまま放置してしまっても良いのかというと、そういうわけにもいきません。成長に伴い力も付いてくるため、本気噛みとなったり噛むことが癖になったりして、それが子どもや第三者を巻き込んだ咬傷事故につながってしまう可能性があるからです。
いくら甘噛みであっても、また子犬であっても、甘噛みをそのまま放置せず、やめさせなければなりません。
犬が「甘噛み」する心理
愛犬の甘噛みをやめさせるために、まずは犬が甘噛みをする心理を理解しておく必要があるでしょう。
1.確認したい
犬は、初めて目にしたものに興味を持つと、ニオイを嗅いだり口の中に入れて軽く噛んだりしながら、それがどんなもので食べられるものなのかなどを確認します。
興味を持ったもので口に入る大きさのものならば何でも口に入れてしまうのは、犬も人間の赤ん坊も同じです。
2.逃げるものは追いかけて捕まえたい
自力で獲物を捕まえなければ生きていけなかった犬の祖先の狩猟本能は、人と一緒に暮らしている今の犬にも脈々と受け継がれています。そのため、目の前を素早く移動する小さなものを見ると、犬は本能的に追いかけて噛みつき、捕まえたいという衝動に駆られます。
人の手足の素早くて細かい動きや、ひらひらと舞うように動く洋服やカーテンなどを目にすると、それにじゃれついて甘噛みをしてしまうのは、犬の本能から出てくる行動だと考えられます。
3.乳歯から永久歯への生え替わり期特有の行為
狩猟本能とは関係なく、犬の成長期には甘噛みをする時期があります。それは生後4〜6ヵ月齢頃に訪れる、乳歯から永久歯への生え替わりの時期です。
人間の赤ん坊と同じように、この頃の子犬は歯や歯茎の辺りのムズムズとした違和感を解消するため、何でも口に入れて甘噛みします。
4.構ってもらいたい
子犬が飼い主さんの指などに甘噛みをすると、甘えていると思った飼い主さんが優しい言葉をかけながら撫でてくれることがあります。
何度かそういう経験をすると、犬は「甘噛みをすれば構ってもらえる」と学習し、構ってもらいたい時に甘噛みをするようになります。
5.喜んでもらいたい
甘噛みした犬に対し、怒ってやめさせるつもりで「こら、やめなさい!」と大きな声でお説教をしたり、大きなリアクションを返すことがありますよね。
実はこの行動は、犬に(喜んでくれた♪)という勘違いをもたらすことが多いことをご存じでしょうか。その結果、飼い主さんに喜んでもらいたくてわざと甘噛みをするようになります。
「甘噛み」をやめさせる適切な対応策
甘噛みをどうしてもしてしまう時期があったとしても、ある時期にきたらやめさせないと大変なことになる可能性があります。
では、犬に「甘噛み」をやめさせるにはどのような対応策が適切なのでしょうか。
物理的に噛めない環境を作る
先にも述べた通り、犬に噛むのをやめさせることは非常に難しいです。
そこで、まずは物理的に甘噛みできない環境を作ることが大切です。ご家庭の環境に合わせて、下記のような工夫をしてみてください。
たとえば、噛んでほしくないものは、愛犬の手の届く範囲に置くのをやめましょう。また、噛んでほしくないものには、苦味のあるしつけ用スプレーを吹き付けておくなどもおすすめです。
そもそも、愛犬と遊ぶ時には必ずおもちゃを使い、人の手足では遊ばせないことを徹底しましょう。つい子犬の時期はおもちゃを買い与える前に手で遊んでしまいがち。しかしそれが癖になってしまうと、なかなかやめさせるのは難しくなってしまいます。
噛まれたくない家具などは、保護フィルムや柵で覆って防御するようにしましょう。せっかくの家具の見た目が…となるのも分かりますが、まずは先に愛犬の甘噛み癖を直してあげましょう。
甘噛みされたら無視する
犬が甘噛みする心理でもご紹介した通り、やめさせるつもりで怒っても、逆に犬を喜ばせてしまうことがしばしばあります。そのため、甘噛みされたらリアクションを返さずに、低い声で一言「ダメ」などの言葉を返し、その場を離れて見えない場所に移動しましょう。
何度か同じことを経験すると、犬は「甘噛みすると遊んでもらえなくなる」ことを学習し、甘噛みしなくなっていきます。
落ち着いて待てたらご褒美を与える
甘噛みされてその場を離れた数十秒後、愛犬が落ち着いて静かになったらそばに戻り褒めてあげましょう。
また普段から、『甘噛みをせず、落ち着いて静かにしていたら褒める』ということを繰り返していると、「甘噛みせず落ち着いていると褒めてもらえる」と学習します。
噛んでも良いものをおもちゃとして与える
愛犬に「噛みたい」という欲求を満たしてあげることも必要です。そのためには、ある程度の長さがある丈夫なおもちゃを使って、飼い主さんが一緒に引っ張り合いっこをして遊ぶのが効果的です。
遊びを終わらせる時に、「チョウダイ」と言っておもちゃを放したらご褒美をあげるようにすると、何かを咥えていても「チョウダイ」の指示で放してくれるようになりますので、拾い食いなどの際にも役に立ちます。
また愛犬をお留守番させる時には、コングなどの丈夫で弾力性があり、頭を使いながらしっかり噛んで長く遊べるおもちゃを渡しておくのもおすすめです。
まとめ
甘噛みは、犬に攻撃の意思がなく噛む力も加減しているために、そのまま放置してしまいがちな行動の一つです。
しかし、「甘噛みすると構ってもらえる」とか「甘噛みすると喜んでくれる」のような勘違いがうまれたり、噛む行動が定着してしまい、興奮した時などに咬傷事故に発展してしまうこともありえます。
とはいえ「噛む」という行為は、犬にとってごく自然な行動のひとつ。上手に噛まないように誘導しつつ、噛む欲求はおもちゃで満たしてあげましょう。
もし手に負えない程噛み癖がついてしまった場合は、ドッグトレーナーや獣医師などの専門家に相談することをおすすめします。