犬の観察力と学習能力
落ち込んだり悲しんだりといったネガティブな気分で沈んでいる時に、愛犬に慰められたという経験を持つ飼い主さんは多いはずです。『慰めようとしているわけではない』と書かれている専門書もありますし、愛犬に直接気持ちを聞いてみることもできません。
それでも、犬には飼い主さんの感情を察知する能力があるというのは定説になっています。飼い主さんのことが大好きな犬は、いつも飼い主さんのことをよく観察していますので、表情や仕草、声のトーンや汗、涙などのニオイなどから敏感に感じ取るのです。
また犬は、高い学習能力も持っています。日頃の飼い主さんとのコミュニケーションから、飼い主さんに何か要望がある時にはどうすればよいのかを、過去の経験から学習しているのです。
この感情の変化を感じ取る観察力と過去の経験による学習の結果が、「愛犬に慰められた」という飼い主さんの感覚につながっているのででしょう。つまり犬は、ネガティブな感情を払拭していつもの飼い主さんに戻って欲しいと願って行動したのだと考えられるのです。
愛犬に「慰めたい」という自覚があるかどうかは別として、これはまさに「慰めたい」という行動だといっても良いのではないでしょうか。
犬が飼い主を「慰めたい時」に見せる行動と仕草
冒頭で書いた内容を踏まえ、ここからは、犬が飼い主さんを「慰めたい時」に見せる行動や仕草をご紹介します。
1.そっと寄り添い体に接触する
多くの飼い主さんが口にする愛犬の慰めの行動は、「そばで静かに寄り添っていてくれる」です。また、「前脚を乗せてじっとそばにいてくれる」、「すぐそばに来て小さくて優しい声で話しかけるように鳴いてくれる」といったような場合もあります。
いずれも、飼い主さんは愛犬のぬくもりを直接感じることができ、それが飼い主さんの気持ちを少しずつ穏やかにしていってくれます。
2.顔を優しく舐める
犬は、相手に「落ち着いて」と伝えるサインとして、相手の顔や口の周囲を舐めるという行動をよく行います。相手が犬とは限らず、飼い主さんに対しても「大丈夫、落ち着いて」と伝えるために顔を舐めることがよくあります。
「泣いていたら涙を優しく舐めてくれた」という話もよく耳にしますが、これは愛犬の「落ち着いて」のサインのひとつだと考えられます。
3.少し離れたところから静かに見守る
寄り添ったり顔を舐めたりといった積極的な慰めではありませんが、少し離れたところから静かに見守ってくれている行動も、慰めの行動と考えて良いでしょう。
いつもと様子が違う飼い主さんのことが気になって仕方がないため、目が離せないのでしょう。
4.積極的に遊びに誘う
中には、遊びや散歩に誘う犬もいます。この場合は愛犬自信が遊びたい、散歩に行きたいと思っているわけではなく、遊んだり散歩に行ったりすれば、いつものように笑ってくれるだろうと考えているのだと思われます。
また、いつもこうすれば飼い主さんが笑ってくれるという、愛犬と飼い主さんの間にしかわからない仕草をすることもあるかもしれません。
5.自分の体を飼い主さんの体にこすりつける
落ち込んだり泣いたりしている飼い主さんに寄り添うだけではなく、自分の体を飼い主さんの体にこすりつけてくることもあります。
犬は、知らないニオイを嗅ぐと不安になったり、慣れ親しんだニオイを嗅ぐと安心して落ち着いたりします。
そこで、いつもと異なる飼い主さんに自分の体をこすりつけ、自分のニオイを感じてもらうことで、飼い主さんを落ち着けようとしてるのだと考えられます。
毎日一緒にいる飼い主だからこそいつもと同じでいてほしい
犬の脳は人の脳の構造とよく似ており、感情に関係する部分が発達しているといわれています。しかし脳の構造上から、犬の言語能力や論理的で複雑な思考能力は、人間にはまだ及ばないレベルだとも考えられています。
飼い主さんがネガティブな感情に押しつぶされそうでつらい時、愛犬はそのつらい気持ちを察して心配し、元気になってもらいたいと考えているのは間違いないでしょう。だからこそ、「慰めたい」という意識の有無はともかく、実際に慰めるような行動を取るのです。
それは、毎日築いてきた飼い主さんと愛犬との絆の証であるともいえます。愛犬との間に楽しい思い出をたくさん作り、しっかりとした太くて愛情のこもった信頼関係の絆を結べているからこそ、飼い主さんがつらい時に愛犬は心配し、慰めてくれるのです。
まとめ
人はネガティブな感情に陥った時、他者を思いやる気持ちを持てないことがあります。飼い主さんを心配して近づいてきた愛犬に対し、つい邪険な対応をしてしまうかもしれません。
しかし、思い出してください。落ち込んでいる時に愛犬が遊びに誘ったり散歩に行きたがったりしても、それはいつもの元気で明るい飼い主さんに戻ってもらいたいという気持ちの表れなのです。