カザフスタンの犬タジーのゲノム解析からわかったこと

カザフスタンの犬タジーのゲノム解析からわかったこと

カザフスタン原産のタジーという犬種の遺伝学的な研究が実施されました。犬種保全のための研究結果をご紹介します。

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犬種の質低下が危ぶまれるタジー

茶色のタジーの横顔

中央アジアのカザフスタン原産のタジーという犬種があります。サルーキによく似たサイトハウンドの一種で、古代から狩猟犬として大切に飼育や育種が行われ、遺伝的多様性の高い古代犬種として知られていました。

しかし現代では同国において、タジーはあまり人気のある犬種ではなく個体数も減っているため、従来の育種方法では犬種の質を保ち存続することが難しくなってきたそうです。

タジーの長期的な遺伝的発展をサポートするためには、遺伝学的な研究が必要です。このたび、カザフスタン遺伝生理学研究所の研究チームがタジーのゲノム解析を行ない、その結果が発表されました。

タジーの近親交配のレベルをゲノムワイドな観点から調査

雪の中を走る2頭のタジー

動物の近親交配の度合いを定量化することは、種の保存や健全な育種のために重要です。

個体レベルおよび集団レベルで近親交配を推定するための方法として、「ホモ接合性領域の検出」があります。ホモ接合性とは同じ対等遺伝子をもつもののことで同型接合とも言います。

血縁関係のある個体同士が交配して生まれた個体は、ホモ接合で同一のゲノムが長い部分を持つようになります。特定の長さのホモ接合性領域が、どの程度存在するかを分析することで、近親交配のレベルに関する情報が得られます。

長く連続したホモ接合性領域(10Mb以上)は5世代ほど前、つまり最近の近親交配を示します。反対に短いホモ接合性領域は、古い近親交配を示します。ホモ接合性領域の長さが1〜4Mbの場合、12.5〜50世代前に起こった近親交配として分類されます。

ゲノムからわかったタジーの歴史、選択された形質

黒いタジーのクローズアップ

この研究では39頭のタジー犬のゲノム解析が行われ、1699のホモ接合性領域が同定されました。1699のホモ接合性領域のうち67%は、古い近親交配を示す1〜2Mbの短いものでした。

分析の結果から、この犬種では約50世代前に同系交配が行われたことが示されました。1世代の長さは1.7〜3.1年であることから、同系交配が行われたのは1868年〜1938年で、この時期にカザフスタンで起こった社会的、または気候的な事象の影響を受けたと考えられます。

1850年〜1868年のロシア/コーカンド・ハン戦争は、カザフスタン南部一帯を舞台にして起こりましたが、この地域はその時期のタジー犬の主要産地であったと考えられます。

さらに、その後の第一次大戦でカザフスタン住民の多くが動員されたこと、19世紀後半から20世紀初頭にかけての家畜の大量餓死などが人口と経済の縮小につながり、タジーの個体数に影響を与えた可能性があります。

しかし、この約50世代前のボトルネック効果(何らかの原因で個体数が減少し、生き残った集団の遺伝的多様性が低下すること)以外では、タジーは高い遺伝的多様性を持っていることが示されました。

タジーの育種に当たって選択されてきたと考えられる特徴のうち、22番染色体の領域は近縁種のアフガンハウンドや、サルーキなどの狩猟形質の領域と重なっていました。

また、最も強く選択されたと考えられる候補遺伝子のうち、CAB39L遺伝子はタジーの走るスピードと持久力に関連する可能性が高いものでした。

まとめ

砂漠に立つタジー

カザフスタン原産の犬種タジーのゲノム解析から、約50世代前にボトルネックがあったものの、この犬種は高い遺伝的多様性を保っていることがわかったという研究結果をご紹介しました。

50世代前の犬の数が激減したと考えられる時代背景を見ると、戦争は犬種の保全という分野にも大きく暗い影を落としたことがよくわかります。

この研究結果は今後のタジーの保全計画や選択育種に組み込むことで、効果的な結果を生み出す可能性があります。ぜひそうあって欲しいと強く思います。

《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-023-37990-5

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